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腎臓にできる腫瘍の種類について 腎臓に腫瘍がみつかったとしても、詳しく調べないと、腫瘍の性質がわかりません。 このため、いくつか検査が行われます。 なお、腎腫瘍は腎腫瘤と表現される場合もありますが、ここでは腫瘍と腫瘤を厳密には分けずに腫瘍として説明します。 まず、中身の性質をもとにすると、腎腫瘍は大きく4つに分類されます、• 充実性腫瘍: 固形のかたまり• 嚢胞性腫瘍:液体のたまりができる• 炎症性疾患: 細菌などを原因として 炎症が起きる病気• 血管性 病変:血管のかたまり さらにこの4つの中に多くの種類が含まれており、詳しく書くと次のようになります。 充実性腫瘍(じゅうじつせいしゅよう)• 良性腫瘍• 腎血管筋• オンコサイトーマ• 悪性腫瘍• 腎がん(腎細胞がん)• 淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)腎細胞がん• 乳頭状腎細胞がん• 嫌色素性(けんしきそせい)腎細胞がん• 透析関連腎がん• 腎盂(じんう) がん• 嚢胞性腫瘍(のうほうせいじんしゅよう)• 良性腫瘍• 単純性腎嚢胞(たんじゅんせいじんのうほう)• 非典型的腎嚢胞(ひてんけいてきじんのうほう)• 傍腎盂嚢胞(ぼうじんうのうほう)• 常 染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせいたはつせいのうほうじん)• 悪性腫瘍• 嚢胞性腎がん• 炎症性疾患• (じんのうよう)• 黄色 肉芽腫性(おうしょくにくげしゅせいじんうじんえん)• 血管性病変• 腎動脈瘤(じんど うみゃくりゅう)• (じんこうそく)• 腎被膜 下血腫(じんひまくかけっしゅ)・表在性損傷 上にあげたものでも多く感じるかもしれませんが、上記の病気はあくまでも腎腫瘍との区別( 鑑別)が必要な主な病気なので、他にもいくつかまれな腎腫瘍が存在します。 今回は腎がんの解説なので病名を紹介するに留めます。 (liposarcoma)• (leiomyosarcoma)• キャッスルマン病(Castleman病)• 類上皮血管筋 小児に発生する腎腫瘍は成人にできやすいものとは異なります。 腎明細胞肉腫• 腎様腫瘍• 先天性間葉芽腎腫• 腎細胞がん 腎臓の腫瘍は、画像検査で明らかに区別がつく場合もあれば、そうでない場合もあります。 腫瘍の種類を診断するには、病理検査(腫瘍の一部を切り取り顕微鏡で観察する検査)が情報量が多く役立つのでよく行われますが、腎腫瘍の場合ほとんど行われません。 腎臓の腫瘍の中には出血しやすいものが含まれているので、リスクを考えて画像検査が主体になります。 次に大別した4つの種類にそって腎腫瘍について説明していきます。 腎血管筋脂肪腫(renal angiomyolipoma:AML) 腎血管筋は、脂肪と筋肉で構成される良性腫瘍です。 女性に多く、画像検査で発見されることが多いです。 良性腫瘍なので、周囲臓器を破壊することはありませんが、大きくなると、 腹部膨満感(お腹が張る)、出血( 血尿や腹痛)が見られます。 症状がある人には治療が必要です。 脂肪成分の有無を確認するのには CTよりも MRIが有効になることがあります。 脂肪成分が明らかな場合はわかりやすいですが、脂肪成分が少なく血管が目立つ場合は腎がんとの区別が難しくなります。 腫瘍の大きさが4cm(意見によって10cm)未満の場合の治療• 経過観察• 腫瘍の大きさが4cm(意見によって10cm)以上の場合の治療• 手術による切除• 血管 塞栓術• 分子標的薬(エベロリムス)• 腎がんとの鑑別が難しい場合の治療• 手術もしくは 生検 腎血管筋は小さい場合は問題となることがほとんどないので、経過観察が行われます。 一方で大きい場合は、自然破裂することがあるので、手術で腫瘍を摘出しますが、どの程度で手術をすべきかという意見は統一されていません。 以前は4cmを超えた時点で手術するべきとされていましたが、良性腫瘍に対して侵襲(体を傷付けること)の大きい手術は慎重であるべきという考えから、10cmまでは様子をみるという意見もあります。 腎がんとの鑑別が困難な場合は、正確な診断をするという目的でも手術を考慮する場合があります。 他の治療法として腫瘍を栄養としている(育てている)血管の血流を止めてしまい腫瘍を小さくしたり、分子標的薬(エベロリムス)という薬を用いることもあります。 しかし、腫瘍が破裂して出血を起こすことがあり、大量出血の場合は命に危険が及びます。 予防として、先に述べた治療が行われます。 また、手術を行わない場合でも大きさの変化を確認するために、定期的な画像検査が必要になることがあります。 腎オンコサイトーマ オンコサイトーマは腎がん(嫌色素性腎がん)と特徴が似ているので区別が必要です。 画像検査では嫌色素性腎がんがオンコサイトーマと似た 所見を取ることがあり、特に小さな腫瘍の場合は鑑別が難しいことがあります。 また、CT検査では「 造影早期相で中程度の染まりを呈して、早期排泄相では低吸収になる」「腫瘍の真ん中が黒く映る(中心性瘢痕)」といった特徴があります。 腫瘍の部分を取り出して顕微鏡で調べる検査(病理検査)を行うと、判断材料が増えて診断精度が上がりますが、実際には画像診断で経験のある医師でも判断が難しいことも多いです。 腎がんとの区別が難しいため、オンコサイトーマと診断されてもしばらくは超音波検査などを使って定期的な検査が必要です。 検査を続けた結果、病気の部分が大きくなる場合や中身の状態に変化が見られる場合には詳しい検査や治療が必要になります。 腎がん(腎細胞がん) 腎がんは腎臓にできる悪性腫瘍のことです。 一般的に腎細胞がんのことを腎がんと呼ぶことが多いです。 【腎がんの主な種類】• 淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)腎細胞がん• 乳頭状(にゅうとうじょう)腎細胞がん• 嫌色素性(けんしきそせい)腎細胞がん• 透析関連(とうせきかんれん)腎がん どのがんであっても治療は主に手術が行われます。 転移している場合や再発した場合は薬物療法(分子標的薬もしくは サイトカイン療法)を行います。 治療に関しては「」と「」で説明しているので参考にしてください。 次にそれぞれの腎がんの特徴について解説します。 淡明細胞という名前は、がん組織にHE染色という方法で色をつけて顕微鏡で観察した時、細胞に淡く色がつくことに由来します。 血流の多く造影CT検査でよくわかる特徴があります。 また、一部の淡明細胞がんの発生とVHLという遺伝子の異常に関連があることがわかってきています。 淡明細胞型腎がんとの区別は比較的容易ですが、良性腫瘍(脂肪成分の少ない腎血管筋、オンコサイトーマ)と見分けがつきにくいことがあります。 乳頭状腎がんは顕微鏡による観察(病理検査)でtype1、type2に分類されます。 一般的にはtype1の方が再発率や転移する可能性が低いとされています。 良性腫瘍(主にオンコサイトーマ)との 鑑別診断です。 血液透析を長年続けている患者さんは腎がんになりやすいことが知られており、透析患者さんでの腎がんの発生頻度は透析を行っていない人に比べると10-40倍とされています。 また、透析期間に腎がんの発生が関係しており、透析期間が長いほどに腎がんの発生する頻度も上昇します。 再発率や転移する確率は低いとされています。 腎盂がん 腎がんに似た悪性腫瘍の1つにがあります。 名前は似ていますが、2つは全く違う病気です。 腎細胞がん(腎がん):腎臓の実質から発生する• :腎盂から発生する 「腎がん」という言葉は一般的に腎細胞がんのことを指すことが多いです。 腎細胞がんは腎臓の実質から発生するがんです。 それに対しては腎盂という部分から発生します。 腎盂は腎臓と 尿管をつなぐ位置にあります。 腎細胞がんとでは手術の方法と 抗がん剤治療の内容が異なるために、区別(鑑別)が必要です。 腎臓を取るという点は腎がんとで共通しています。 では、尿管と膀胱壁を同時に全て切除(腎盂尿管全摘除術)しなければ治療として不十分です。 一方、腎がんでは尿管は半分程度しか切除しません(根治的腎摘除術)が治療としては問題ありません。 同じく 抗がん剤の内容も異なります。 はやと同じ尿路上皮がんに分類されます。 に対する抗がん剤はで使用する薬剤と同様です。 一方で、腎がんに対してはに効果のある薬には効果がほとんどないとされており、分子標的薬という種類の抗がん剤を選ぶ必要があります。 がんの種類 腎がん 手術方法 腎部分切除術、根治的腎摘除術 腎盂尿管全摘除術 薬物療法 分子標的薬、サイトカイン療法 に準じた抗がん剤治療 医師から腎臓にがんができていると説明を受けた場合にはそれが「腎がん」なのか「」なのかをしっかりと聞くようにしてください。 がんの種類 腎がん 早期 症状なし 肉眼的血尿(見た目で赤い) 進行したとき 疼痛、肉眼的血尿、腹部腫瘤感 側腹部痛、肉眼的血尿 腎がんとの症状は似通ったところが多く、このために症状で見分けることは困難です。 腎がんとを区別(鑑別)するために、画像検査(超音波検査、造影CT検査、MRI検査)や 尿細胞診などが行われます。 腎臓の嚢胞性腫瘍(のうほうせいしゅよう) 嚢胞とは中身が水の風船のようなものを指します。 嚢胞の中にも色々あります。 造影CT検査で造影効果があるものや、中身が単純な水ではなくて濃い濃度のものなど特徴は様々です。 【腎臓の嚢胞性腫瘍】• 良性腫瘍• 単純性腎嚢胞(たんじゅんせいじんのうほう)• 非典型的腎嚢胞(ひてんけいてきじんのうほう)• 傍腎盂嚢胞(ぼうじんうのうほう)• 常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせいたはつせいのうほうじん)• 悪性腫瘍• 嚢胞性腎がん• 単純性腎嚢胞 単純性腎嚢胞(たんじゅんせいじんのうほう)は、腎臓に発生した水のような液体を中身とする袋状の腫瘍です。 尿細管(にょうさいかん)という尿が流れる管が閉塞することが原因でできると推測されています。 診断には 腹部超音波検査や 腹部CT検査が役立ちます。 嚢胞の中身がCTに写る濃度(画像上の色の白さ)により中身を推定することができます。 腎嚢胞の中身が水成分より濃度が濃い場合や、造影CTで中身が造影される場合には非典型的腎嚢胞と診断されます。 単純性腎嚢胞は小児では稀ですが、加齢とともに頻度が増加します。 無症状なので治療の必要はありませんが、大きくなると症状が現れます。 症状が強い場合は、治療が検討されます。 【単純性腎嚢胞の治療】• 経皮的腎嚢胞 穿刺術(けいひてきじんのうほうせんしじゅつ)• 体の外から針を刺して水を抜く• 硬化療法• 経皮的腎嚢胞穿刺術を行いその後、水が溜まっていたところに接着効果のある物質を注入し嚢胞をつぶす どちらも背中から針を刺して治療する方法なので、痛みを伴います。 治療後に再発することもあり、治療を複数回行わなければならない場合もあります。 非典型的腎嚢胞 非典型的腎嚢胞(ひてんけいてきじんのうほう)は、中身が液体の袋状の構造物が腎臓に発生する病気です。 中身が水成分ではない点が、単純性腎嚢胞と異なります。 画像検査(超音波検査やCT検査、MRI検査など)を組み合わせて性質が調べられ、検査決kは次に説明するボスニアク分類に当てはめられます。 経過観察が必要という意味です。 2Fのうち一部は経過観察のうちに悪性の可能性が否定できず手術を行うことになります。 手術は可能であれば腎部分切除、腫瘍が大きい場合は根治的腎摘除術が行われます。 2Fに分類された人は定期的に超音波検査や場合によってはCTなどで経過観察を行います。 カテゴリー4、5で手術を行い腎がんであった場合には腎がんと同様に再発の有無を確認するために定期的な画像検査を行います。 常染色体優性多発性嚢胞腎 常染色体優性は患者さんの数が多い遺伝子病の1つで、(腎臓の機能が低下すること)の原因になります。 また、腎臓以外の臓器にも影響が現れます。 肝臓嚢胞• 約10%• 典型的な経過では30歳から50歳の間に血尿や側腹部痛をきっかけに、常染色体優性多発嚢胞腎が指摘されます。 初期の状態では腎嚢胞は数個しか発生していないので、単純性腎嚢胞と鑑別することが困難です。 検査も重要ですが、遺伝性疾患であるので、家族歴(家族に同じ病気の人がいるか)や血尿などの症状が重要です。 症状や患者さんのもつ背景について、医師に詳しく説明してください。 常染色体優性には手術は行いません。 腎機能をなるべく維持することが最も大切な治療です。 腎機能を維持するには血圧を適正に保ったり食事に気をつけることなどが重要です。 原因遺伝子を持っていると必ず発病するとは限りませんが、原因遺伝子を持っている人は発症する可能性があります。 常染色体劣性は常染色体優性と似た特徴がありますが、別の病気です。 医師から説明があるときには病名をよく聞くようにしてください。 黄色肉芽腫性腎盂腎炎 黄色肉芽種性(おうしょくにくげしゅせいじんうじんえん)は脂肪を多く含む細胞によって見た目が黄色のかたまり(結節)を腎臓につくるまれな病気です。 (やなど)に過去にかかった中年女性に多いとされていることがわかっていますが、詳しい原因については不明です。 CT検査や超音波検査といった画像検査を参考に診断されますが、判断が難しい場合は、病理検査(病気の一部分を取り出して顕微鏡で観察する検査)が検討されます。 病気の広がりによって治療法が変わります。 病変の広がりが狭い場合(focal form):抗菌薬の投与• このため、最初は抗菌薬による治療が行われることが多いです。 腎結核 (じんけっかく)は 結核菌が腎臓に感染するこ病気です。 主な症状は次のものです。 排尿時痛• 残尿感• 倦怠感• 体重減少• 微熱、寝汗 診断のために、尿中の結核菌の有無を調べられます。 また、腎臓の状態を調べるために、画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査など)が行われます。 治療には4種類ある抗薬を6-9ヶ月内服します(高齢者の場合は3剤で治療することもあります)。 【抗薬】• イソニアジド• リファンピシン• エタンブトール• ピラジナミド(高齢者では省く場合も) を治すには、抗薬は決めたとおりに飲むことが鍵になるので、DOTS(Directly Observated Treatment Short Course )と言って治療期間中は医療者の目の前で患者さんが薬を飲み、正しく内服を行っていることを確認する方法が行われます。 重症化のために腎臓が機能していない場合は、手術で腎臓を摘出する(腎摘除術)こともあります。 の治療を詳しく知りたい人は「」を参考にしてください。 参考:「ワシントンマニュアル 第12版」 腎動脈瘤 瘤(りゅう)とはこぶのことです。 本来は管状の動脈の壁にこぶが発生したものを動脈瘤といいます。 動脈瘤は全身の動脈のどこにでも起こりえます。 腎動脈に発生した動脈瘤を腎動脈瘤といいます。 腎動脈瘤が破裂すると、大量出血することがあり、命に危険が及ぶことも少なくありません。 特に15-20mm以上の腎動脈瘤は破裂する危険性が高いという意見があるので、破裂を予防するために治療が検討されます。 診断のためにCT検査や血管造影検査(カテーテルを使って血管の形を調べる検査)が行われます。 治療が必要な人には、腎動脈瘤塞栓術という カテーテル治療が行われます。 この治療では、瘤に細い医療用の針金を詰めて、破裂するのを予め予防します。 最も多い症状である腹部腫瘤感によって見つかることが多いです。 また、が疑われる人には次のような画像検査(超音波検査やCT検査、MRI検査など)が行われ、病気の有無または広がりが調べられます。 血液検査や尿検査での 腫瘍マーカーはなく、画像検査の結果によって進行度( 病期)を分類します。 分類の基準と当てはまる人の割合を表に示します。 【National Wilms Tumor Study(NWST)による病期分類( ステージ)と割合】 ステージ 詳細 割合 1 腫瘍が腎に限局して、完全に摘出できたものの、腎被膜や腎洞内部への浸潤がみられない。 ステージ4またはステージ5のはかなり進行した状態ですが、その状態は人によって違います。 つまり、ステージ5だからといって必ずしも「末期がん」とは限りません。 また、ではステージのほかに病理組織学的診断による分類も治療法や先の見通し( 予後)に大きく影響します。 は切除または生検によって採取した組織を顕微鏡で診断(病理診断)することでステージとは別に、「予後良好群」と「予後不良群」の2つに分類されます。 「予後不良」という言葉は「見通しがよくない」という意味がありますが、の予後不良群でも治療により長期生存が期待できる場合があるので、あまり深刻に受け止めすぎないようにしてください。 手術と抗がん剤治療が治療の軸になります。 ステージが進行していると、 放射線治療が追加されます。 分類 予後良好群 予後不良群 ステージ1 手術+抗がん剤治療 手術+抗がん剤治療+放射線治療 ステージ2 手術+抗がん剤治療 手術+抗がん剤+放射線治療 ステージ3 手術+抗がん剤治療+放射線治療 手術+抗がん剤+放射線治療 (抗がん剤を手術前に行う場合あり) ステージ4 手術+抗がん剤治療+放射線治療 転移をしている部位への放射線治療 手術+抗がん剤+放射線治療 (抗がん剤を手術前に行う場合あり) 転移をしている部位への放射線治療 ステージ5 下記 下記.

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なるべく、 夜更 ( よふ )けに着く汽車を選びたいと、三日間の収容所を出ると、わざと、 敦賀 ( つるが )の町で、一日ぶらぶらしてゐた。 六十人余りの女達とは収容所で別れて、税関の倉庫に近い、荒物屋兼お休み 処 ( どころ )といつた、家をみつけて、そこで独りになつて、ゆき子は、久しぶりに故国の畳に寝転ぶことが出来た。 宿の人々は親切で、風呂をわかしてくれた。 小人数で、風呂の水を替へる事もしないとみえて、濁つた湯だつたが、長い船旅を続けて来たゆき子には、人肌の 浸 ( し )みた、白濁した湯かげんも、気持ちがよく、風呂のなかの、薄暗い 煤 ( すゝ )けた窓にあたる、しやぶしやぶした みぞれまじりの雨も、ゆき子の孤独な心のなかに、無量な気持ちを誘つた。 風も吹いた。 汚れた 硝子窓 ( ガラスまど )を開けて、鉛色の雨空を見上げてゐると、久しぶりに見る、故国の貧しい空なのだと、ゆき子は 呼吸 ( いき )を殺して、その、窓の景色にみとれてゐる。 小判型の風呂のふちに両手をかけると、左の腕に、みみずのやうに盛りあがつた、かなり大きい刀傷が、ゆき子をぞつとさせる。 そのくせ、その刀傷に湯をかけながら、ゆき子はなつかしい思ひ出の数々を 瞑想 ( めいさう )して、今日からは、どうにもならない、息のつまるやうな生活が続くのだと、観念しないではなかつた。 退屈だつた。 潮時 ( しほどき )を 外 ( は )づした後は、退屈なものなのだと、ゆき子は汚れた手拭ひで、ゆつくり 躯 ( からだ )を洗つた。 煤けた狭い風呂場のなかで、躯を洗つてゐる事が、嘘のやうな気がした。 肌を刺す、冷い風が、窓から吹きつけて来る。 長い間、かうした冷い風の触感を知らなかつただけに、ゆき子は、季節の 飛沫 ( ひまつ )を感じた。 湯から上つて部屋へ戻ると、赤茶けた畳に、寝床が敷いてあり、粗末な箱火鉢には炎をたてて、火が 熾 ( おこ )つてゐた。 火鉢のそばには、盆が出てゐて、小さい 丼 ( どんぶり )いつぱいにらつきようが盛つてある。 ぐらぐらと煮えこぼれてゐるニュームの やかんを取つて、茶を 淹 ( い )れる。 ゆき子はらつきようを一つ 頬張 ( ほゝば )つた。 障子の外の廊下を、二三人の女の声で、どやどやと隣りの部屋へ 這入 ( はい )つて行く気配がした。 ゆき子はきき耳をたてた。 襖 ( ふすま ) 一重 ( ひとへ )へだてた部屋では、一緒の船だつた、芸者の幾人かの声がしてゐる。 「でも、帰りさへすればいゝンだわ。 日本へ着いた以上は、こつちの躯よ、ねえ……」 「本当に寒くて心細いわ。 ……あたい、冬のもの、何も持つてやしないもンね。 これから、まづ身支度が大変だよ」 口ほどにもなく、案外陽気なところがあつて、何がをかしいのか、くすくす笑つてばかりゐる。 ゆき子は所在なく寝床へ横になつて、 暫 ( しばら )く 呆 ( ぼ )んやりしてゐたが、気が 滅入 ( めい )つて、くさくさして仕方がなかつた。 それに、 何時 ( いつ )までたつても、隣室の騒々しさはやまなかつた。 べとついた古い敷布に、ほてつた躯を投げ出してゐるのは、気持ちのいゝことであつたが、これからまた、長い汽車旅につくといふことは、心細くもあつた。 肉親の顔を見るのも、いまではさして魅力のある事ではなくなつてゐる。 ゆき子は、このまゝまつすぐ東京へ出て、富岡を尋ねてみようかとも思つた。 富岡は運よく五月に 海防 ( ハイフォン )を 発 ( た )つてゐた。 先へ帰つて、すべての支度をして、待つてゐると約束はしてゐたのだが、日本へ着いてみて、現実の、この寒い風にあたつてみると、それも浦島太郎と 乙姫 ( おとひめ )の約束事のやうなもので、二人が行き合つてみなければ、はつきりと、確かめられるわけのものでもない。 船が着くなり、富岡のところへ電報も打つた。 三日間を引揚げの寮に過して、調べが済むと、同時に、船の者達は、それぞれの故郷へ発つて行くのだ。 三日の間に、富岡からは返電は来なかつた。 これが逆であつてみても、同じやうな事になつてゐるのかもしれないと、ゆき子は何となく、あきらめてきてもゐた。 ひとねいりしたが、まだ時間はあまりたつてゐない。 障子が 昏 ( くら )くなり、部屋のなかに、燈火がついてゐる。 隣りでは、食事をしてゐる様子だつた。 ゆき子も腹が空いてゐた。 枕許 ( まくらもと )のリュックを引き寄せて、船で配給された 弁当 ( レイション )を出した。 茶色の小さい箱のなかに、四本入りのキャメルの煙草や、ちり紙、乾パン、粉末スープ、豚と 馬鈴薯 ( ばれいしよ )の罐詰なぞが、きちんとはいつてゐる。 その中からチョコレートを出して、ゆき子は、 腹這 ( はらば )つたまゝ 齧 ( か )じつた。 少しも 甘美 ( おいし )くはなかつた。 ドウソンの岬の、白い燈台や、ホンドウ島のこんもりした緑も、生涯見る事はないだらうと、ゆき子は、船から焼きつくやうに、この景色に眼をとめてはゐたが、そんな、異郷の景色もすつかり色あせてきて、思ひ出すのも 億 ( おく )くふであつた。 隣室の女達は、夜汽車で発つのか、食事が終ると、宿のおかみさんに、勘定を払つてゐる様子だつた。 ゆき子は騒がしい隣室の様子を聞きながら、粉末スープを湯呑みにあけて、煮えた湯をそゝいで飲んだ。 残りのらつきようも食べた。 軈 ( やが )て女達は、お世話さまになりましたと、口々に云ひながら、おかみさんの後から廊下を 賑 ( にぎ )やかに通つて行つた。 女の声を聞いてゐると、ゆき子は、あの女達も、それぞれの故郷へ戻つて行くのだらうと、誘はれる気がした。 ゆき子が、船で聞いたところによると、芸者達は、プノンペンの料理屋で働いてゐたのださうで、二年の年期で来てゐた。 芸者とは云つても、軍で呼びよせた慰安婦である。 こんなにも、 沢山 ( たくさん )日本の女が来てゐたのかと思ふほど、それぞれの都会から慰安婦が海防へ集つて来た。 昭和十八年の秋、ダラットに着いたのである。 この地は海抜高一・六〇〇 米 ( メートル )位で、気温も最高二五度、最低六度位で、高原地帯のせゐか、非常に住みいゝところであつた。 仏蘭西 ( フランス )人で茶園を経営してゐるものが多く、澄んだ高原の空に、甘い仏蘭西の言葉を聞くのは、ゆき子には珍しかつた。 ゆき子はふつと、富岡へ手紙を書かうと思つた。 どんな事を書いていゝかは、判らなかつたけれども、書いて行くうちには、何とか心がまとまつて来さうであつた。 富岡と同じ土の上に着いてゐるのだと思ふと、海防の収容所で、心細く虚無的になつてゐた気持ちも、少しづつ立ちなほつてきさうである。 ゆき子は店の子供に頼んで、レターペエパアと封筒を買つた。 ゆき子は気が変つて来た。 ゆき子は、まつすぐ東京へ出て 伊庭 ( いば )を尋ねてみようと思つた。 焼けてさへゐなければ、富岡に逢へるまで、まづ伊庭の処へ厄介になつてもいゝのだ。 厭な記憶しかないが、仕方がない。 静岡には何のたよりもしなかつたので、自分の帰りを待つてくれる 筈 ( はず )もない。 船で一緒だつた男の顔も二人ばかり、暗いホームで見掛けたけれども、ゆき子は、わざとその男達から [#「男達から」は底本では「男達たちから」]離れて後の列車に乗つた。 驚くほどの混雑で、ホームの人達はみんな窓から列車に乗り込んでゐる。 ゆき子も、やつとの思ひで窓から乗車する事が出来た。 何も彼もが、俊寛のやうに 気後 ( きおく )れする気持ちだつた。 南方からの引揚げらしい、冬支度でないゆき子を見て、四囲の人達がじろじろゆき子を盗見してゐる。 如何 ( いか )にも敗戦の 形相 ( ぎやうさう )だと、ゆき子もまた立つて 揉 ( も )まれながら、四囲を眺めてゐた。 夜のせゐか、どの顔にも気力がなく、どの顔にも血色がない。 抵抗のない顔が狭い列車のなかに、重なりあつてゐる。 奴隷列車のやうな気もした。 ゆき子はまた、少しづつこの顔から不安な反射を受けた。 日本はどんな風になつてしまつたのだらう……。 旗の波に送られた、かつての兵士の顔も、いまは何処にもない。 暗い車窓の山河にも、疲労の跡のすさまじい形相だけが、るゐるゐと 連 ( つ )らなつてゐた。 東京へ着いたのは、翌日の夜であつた。 雨が降つてゐた。 品川で降りると、省線のホームの前に、ダンスホールの裏窓が見えて、暗い燈火の下で、幾組かが 渦 ( うづ )をなして踊つてゐる頭がみえた。 光つて降る 糠雨 ( ぬかあめ )のなかに、物哀しいジャズが流れてゐる。 ゆき子は寒くて震へながら、 崖 ( がけ )の上のダンスホールの窓を見上げてゐた。 光つた白い帽子をかぶつた、背の高いMPが二人、ホームのはづれに立つてゐる。 ホームは薄汚れた人間でごつた返してゐる。 ジャズの音色を聞いてゐると、張りつめた気もゆるみ、投げやりな心持ちになつて来る。 そのくせ、明日から、生きてゆけるものなのかどうかも判らない 懼 ( おそ )れで、胸のなかが白けてゐた。 ホームに群れだつてゐるものは、おほかたがリュックを背負つてゐた。 時々、思ひもかけない、唇の紅い女が、外国人と手を組んで、階段を降りて来るのを見ると、ゆき子は、珍しいものでも見るやうに、じいつとその派手なつくりの女を見つめた。 かつての東京の生活が、根こそぎ変つてしまつてゐる。 ゆき子が、西武線の 鷺 ( さぎ )の 宮 ( みや )で降りた時、その電車が終電車であつた。 踏み切りを渡つて、見覚えの発電所の方へ行く、広い道を歩いてゐると、三人ばかりの若い女が、雨のなかを急ぎ足にゆき子のそばを通り抜けて行つた。 三人とも、派手な 裂地 ( きれぢ )で頬かぶりをして、長い 外套 ( ぐわいたう )の襟をたててゐた。 「今日、横浜まで送つて行つたのよオ。 どうせ、ねえ、向うには奥さんもあるンでせう……。 でも、人間つて、瞬間のものだわねえ。 それでいゝンだらう……。 友達を紹介して行つてくれたンだけどさア、何だか変なものよねえ。 自分の女にさア、友達をおつつけて行くなンて、日本人には判らないわ……」 「あら、だつて、いゝぢやないの。 どうせ、別れてしまへば、二度と、その人と逢へるもンでもないしさア、気を変へちやふのよオ。 あたしだつて、もうぢき、あの人かへるでせう……。 だからさア、厚木へ通ふのも大変だしね、そろそろ、あとのを探さうかと思つてンのよ……」 ゆき子は、 賑 ( にぎ )やかな女達の後から足早やについて行つた。 そして、 声高 ( こわだか )に話してゐる女達から聞く話に、日本も、そんな風に変つてしまつてゐるのかと、妙な気がしてきた。 軈 ( やが )て女達は、ポストの処から右へ這入つて行つてしまつた。 ゆき子はすつかり濡れ鼠になつて疲れてゐた。 此のあたりは、南へ出発の時と少しも変つてはゐなかつた。 細川といふ産婆の看板を左へ曲つて二軒目の、狭い路地を突きあたつたところに、伊庭の家がある。 自分の、このみじめな姿を見せたら、みんな驚くに違ひない。 ゆき子は石の門の前に立つて、暗い街燈の下で身づくろひをした。 ずつぷりと髪も肩も濡れてゐる。 落ちぶれ果てたものだと思つた。 ベルを押してゐると、仏印へなぞ行つてゐた事が、嘘のやうな気がして来た。 玄関の硝子戸に燈火が射して、すぐ大きい影が、土間に降りたつたやうだ。 ゆき子は 動悸 ( どうき )がした。 男の影だけれど、伊庭ではない。 「どなた?」 「ゆき子です……」 「ゆき子? どちらの、ゆき子さんですか?」 「仏印へ行つてました、幸田ゆき子です」 「はア……。 どなたをお尋ねですか?」 「伊庭杉夫はをりませんでせうか?」 「伊庭さんですか? あのひとは、まだ疎開地から戻つてはをられませんですよ」 その影の男は、やつと、億くふさうに鍵を開けてくれた。 濡れ鼠になつて、外套も着ないで、リュックを背負つてゐる若い女を見て、寝巻きを着た男は、 吃驚 ( びつくり )したやうな様子で、ゆき子を眺めた。 「伊庭の親類のもので、今日、戻つて来たものですから……」 「まア、おはいり下さい。 伊庭さんは、三年ほど前から、静岡の方へ疎開していらつしやるンですがね」 「ぢやア、こゝはもう、伊庭はすつかり引揚げてゐるンでせうか?」 「いや、伊庭さんの代りにはいつてゐるンですが、伊庭さんの荷物は来てゐますよ」 ゆき子達の話声を聞いて、その男の細君らしいのが、赤ん坊をかかへて玄関へ出て来た。 ゆき子は仏印から引揚げて来た事情を話した。 伊庭と、この男との間は、家の問題でいざこざがある様子で、あまりいゝ顔はしなかつたが、それでも、こゝは寒いから座敷へ上れと云つてくれた。 敦賀の宿で、握り飯を一食分だけ特別につくつてくれた以外は、飲まず食はずの汽車旅だつたので、ゆき子は躯が宙に浮いてゐるやうだつた。 廊下のミシンにぶつつかつたりして、座敷へ通ると、伊庭の一家が 何時 ( いつ )も寝室に使つてゐた六畳間で、荷造りした荷物が畳もへこんでしまふ程積み重ねてあつた。 仏印から引揚げて来たと聞いて、細君は同情したのか、茶を 淹 ( い )れたり、芋干しを出したりした。 男は四十年配で、躯の大きい、軍人あがりの、武骨なところがあつた。 細君は小柄で色の白い、そばかすの浮いた顔をしてゐたが、笑ふと 愛嬌 ( あいけう )のいゝ 笑靨 ( ゑくぼ )が浮いた。 その夜、蒲団を二枚借りて、伊庭の荷物の積み重ねてある狭いところへ、ゆき子は一夜の宿をとる事が出来た。 ゆき子はリュックからレイションを二箱出して細君へ 土産 ( みやげ )代りに出した。 床にはいつて、寝ながら、こも包みの荷の中へ指を差しこんでみると、厚い木でがんじやうに打ちつけてあるので、なかに何がはいつてゐるのかさつぱり判らない。 話によると、暮までには伊庭が上京して来るので、二部屋ばかり 空 ( あ )けなければならないと細君は云つてゐた。 六人家内なので、いまのところ、どの部屋を空けるかが問題だけれど、自分達は空襲時代、一生懸命にこの家を 護 ( まも )つたのだから、急にどいてくれと云はれても、どくところはないし、そんな事は、道に 外 ( は )づれてゐると云つた。 伊庭も、何時までも 田舎暮 ( ゐなかぐら )しも出来ないので、 苛々 ( いらいら )してゐるのだらうと、ゆき子は、早々と荷物を送りつけて来てゐる伊庭一家の気持が察しられた。 みんな丈夫でゐるらしい事も判つて、かへつてゆき子は拍子抜けのするやうな気持ちだつた。 幸田ゆき子が仏印のダラットに着いたのは、昭和十八年の十月も半ば過ぎであつた。 農林省の茂木技師一行に連れられて、四人のタイピストがまづ 海防 ( ハイフォン )に着いた。 志願者は五人ばかりあつたが、幸田ゆき子も志願して一行に加はつた。 幸田ゆき子は高原のダラッ卜へきまり、もう一人の篠井春子はサイゴンに職場を得た。 一番貧乏くじを引いたのは幸田ゆき子である。 地味で、一向に目立たない人柄が、さうしたところに追ひやつたのかも知れない。 額の広い割に、眼が細く、色の白い娘だつたが、愛嬌にとぼしく、 何処 ( どこ )となく淋しみのある顔立ちが人の眼を 惹 ( ひ )かなかつた。 軍の証明書に張つてある彼女の写真は、年よりは老けて、二十二歳とは見えなかつた。 白い襟つきの服が似合ふ以外に、何を着てゐても、何時も同じやうな服装をしてゐる女にしかみえない。 サイゴンに行く篠井春子は、五人のなかでも一番美人で、一寸 李香蘭 ( りかうらん )に似た 面差 ( おもざ )しがあつたので、幸田ゆき子なぞの存在は、誰にも注意されなかつたのだ。 河内から南部印度支那のビンまでは、自動車で三百五十キロ走つた。 ビンのグランド・ホテルに宿を取つた。 道々の野山は、野火の跡で黒くくすぶつてゐたり、またあるところでは、むくむくと黄ろい煙をたてて燃えてゐる林野もあつた。 油桐や松の造林地帯がほとんどで、行けども行けども森林地帯のせゐか、篠井春子は、幾度も太い 溜息 ( ためいき )をついて、わざと心細がつてみせてゐるところもあつた。 ゆき子は 馴 ( な )れない長途の旅で、へとへとに疲れてゐた。 タンノアといふところを出てから、長く続いてゐる 黄昏 ( たそがれ )の道を、自動車はかなりのスピードで走つたが、ビンへ近くなつてからは、 昏 ( くら )くなつた四囲に、大きな 蛾 ( が )が飛び立つてゐて、自動車のヘッドライトに明るく照し出された道の方へ、紙片を散らしたやうに、白い 蛾 ( が )が群れだつて寄つて来た。 ホテルの左手には、運河でもあるのか、水に反響する安南人の船頭の声がしてゐた。 食用蛙がやかましく 啼 ( な )きたててゐる。 ビンロウや、ビルマネムの植込みのなかへ自動車を置いて、一行はホテルの部屋へ案内された。 運河の見える、こざつぱりした階下の部屋に、篠井春子と幸田ゆき子は通された。 春子は窓を開けた。 運河の水音がしてゐる。 橙色 ( だいだいいろ )の燈のついた卓子には、二人の貧弱なトランクが並んでゐた。 桃色の花模様の壁紙や、柔い水色毛布のかゝつてゐるダブルベッドは、 如何 ( いか )にも 仏蘭西 ( フランス )人の趣味らしく、清潔で可愛いかつた。 戦争下の日本で、長らく貧しい生活にあつた二人にとつて、これはまるでお 伽話 ( とぎばなし )の世界である。 顔を洗つて、食堂で遅い晩食をとつてゐると、腕に憲兵の白い布を巻いた兵隊が、わざわざ女二人の身分証明書を見に来たりした。 若い憲兵は、日本の女が珍しくなつかしかつたのだらう。 日本を 発 ( た )つ時は、うそ寒い陽気だつたのに、海防から、河内、タンノアと南下して来るにつれて、急に季節はまた夏の方へ逆もどりしてゐた。 柔 ( やはらか )い、弾力のあるベッドに寝てゐると、仲々寝つかれない。 太棹 ( ふとざを )の三味線でも聴いてゐるやうに、食用蛙が、ぽろんぽろんと雨滴のやうに何時までも二人の耳についてゐた。 東京を発つ時の、伊庭の家での事や、友人達との壮行会や、陸軍省でのあわたゞしい注射の日が、夢うつゝに浮んで、ゆき子は、仏印にまで来るなぞとは夢にも考へられなかつた運命が、自分でも不思議でならなかつた。 東京へ家を持つてゐる唯一の親類さきで、ゆき子は静岡の女学校を出るとすぐ、伊庭杉夫の家へ寄宿して、神田のタイピスト学校へ行つた。 杉夫は保険会社の人事課に勤めてゐて、実直な男だと云ふ評判であつたが、ゆき子が寄宿して、 丁度 ( ちやうど )一週間目の或夜、ゆき子は杉夫の為に犯されてしまつた。 女中部屋の三畳にゆき子は寝てゐた。 何となく眠れない夜で、杉夫が台所に水を飲みに行つてゐる物音をゆき子はうとうと聴いてゐたが、 軈 ( やが )て、すつと女中部屋の障子が開いた。 ゆき子は、それを夢うつゝに聴いてゐた。 その障子はまた静かに閉まつて、みしみしと畳をふむ音がした。 重くかぶつてくる男の体重に胸を押されて、ゆき子ははつとして、 暗闇 ( くらやみ )に眼を開いた。 革臭 ( かはくさ )い匂ひがして、杉夫が何か小さい声で云つたのが、ゆき子には判らなかつた。 蒲団の中に、肌の荒い男の脚が差し寄せられて、初めて、ゆき子は声をたてようとした。 そのくせ、声をたてるわけにもゆかないものを感じて、ゆき子は身を固くして黙つてゐた。 その夜の事があつて以来、ゆき子は、杉夫の妻の真佐子に、顔むけのならないやうな気がしてゐたけれども、ゆき子は、夜になると、杉夫の来るのが何となく待ちどほしい気がしてならなかつた。 杉夫は来るたびに、ハンカチをゆき子の口のなかへ押し込むやうにした。 美人で、機智のある妻の真佐子をさしおいて、目立たない自分のやうな女に、どうして杉夫がこんな激しい情愛をみせてくれるのか、ゆき子は不思議だつた。 タイピスト学校を出て、農林省へ勤めてゐた。 真佐子は杉夫とゆき子の情事は少しも知らない様子だつた。 たまに、真佐子が子供づれで横浜の実家へ泊りに行つたりすると、杉夫は早くから寝床へ 就 ( つ )いて、ゆき子を呼んだりした。 ゆき子は、只、黙つて杉夫の意のまゝにしたがふより仕方がない。 将来に就いて語りあふといふでもなく、まるで 娼婦 ( しやうふ )をあつかふやうなしぐさで、杉夫は、ゆき子をあつかつた。 いよいよ、仏印行きが本当にきまつてから、ゆき子は肉親にも知らせ、伊庭夫婦にも打ちあけた。 杉夫は別に顔色も変へなかつた。 ゆき子は、案外冷たい表情でゐる杉夫を盗み見て、心のなかに 噴 ( ふ )きあげるやうな侮辱を感じてゐたが、自分が伊庭の家を出る事によつて、伊庭の心のなかに、太い釘を差し込むやうな、気味のいゝものも感じた。 真佐子に対しても、ゆき子はかへつて憎しみを持つやうになり、時々、真佐子の口から、「このごろ、ゆきさんはすぐふくれるやうになつたのね。 早くお嫁さんにやらなくちや駄目だわ」と 冗談 ( じようだん )にも、皮肉にもとれるやうな事を云つたりする。 杉夫は、ゆき子がいよいよ二三日うちに仏印出発と聞くと、薬や、ハンドバッグや、下着の類を買ひとゝのへて来た。 ゆき子は杉夫にそんな事をして貰ふのが 口惜 ( くや )しくてたまらなかつた。 真佐子は真佐子で、ゆき子に対して、杉夫のさうした心づかひが不思議で、 反撥 ( はんぱつ )するものを持つてゐる様子だつた。 ゆき子は明け方になつて、杉夫の夢を見た。 遠い旅に出たせゐか、妙に人肌恋しくて、奈落に沈んでゆくやうな淋しさになる。 ここまで来てゐながら、日本へ帰りたい気がしてならなかつた。 ハンカチを口へ押し込む時の、 気忙 ( きぜ )はしい杉夫の息づかひが、耳について離れない。 厭だと思ひ続けてゐた杉夫が、こんなに遠いところへ来て、急に恋しくなるのは変だと、ゆき子は、杉夫との情事ばかりを想ひ出してゐた。 きつと、杉夫は淋しがつてゐるに違ひない。 只、あのひとは無口だつたから、別に、こみいつた事も云はなかつたけれども、仏印へ発つ日まで、二人の関係が続いてゐた。 三年も関係が続いてゐて、どうして子供が生れなかつたのだらう……。 そのくせ、三年の間に、真佐子の方には男の子が生れた。 ゆき子は果てしもなく、いろいろな記憶がもつれて来る事に、やりきれなくなつて、そつと起きた。 ヴェランダへ通じる 硝子戸 ( ガラスど )を開けると、運河はすぐ眼の前に光つてゐた。 ビルマネムの大樹が運河添ひに並木をなして、珍しい 小禽 ( ことり )の声が騒々しくさへづつてゐた。 もやの淡く立ちこめた運河の上に、安南人の小船がいくつももやつてゐる。 石造りのヴェランダに 凭 ( もた )れて、朝風に吹かれてゐると、何ともいへないいゝ気持ちだつた。 地球の上には、かうした夢のやうな国もあるものだと、ゆき子は、 小禽 ( ことり )のさへづりを聴いたり、運河の水の上を 呆 ( ぼ )んやり眺めてゐたりした。 燕も群れをなして飛んでゐる。 海防 ( ハイフォン )の濁つた海の色を境にして、何も 彼 ( か )も虚空の 彼方 ( かなた )に消えてゆき、これから、どんな人生が待つてゐるのか、ゆき子には予測出来なかつた。 早い朝食が済んで、また自動車に乗り、南部仏印での古都である、ユヱへの街を指して、一行は 発 ( た )つて行つた。 木麻黄 ( もくまわう )の並木路を 透 ( す )かして、運河ぞひの 苫屋 ( とまや )からも、のんびりと炊煙があがつてゐた。 広い植民道路を、黄色に塗つたシトロエンが、シュンシュンとアスファルトの道路に吸ひつくやうな音をたてて走つてゐる。 ビンの街は、人口二万五千あまりで、北部安南でもかなり重要な街だと、一行での男連中の話である。 軈 ( やが )て、植民道路は高原のラオスにはいつて行く路と二つに分れた。 時々、野火が右手の森林から煙を噴いてゐる。 広い森林地帯の中のユヱへの植民道路をかなり走つてから、やつと四囲に 薄陽 ( うすび )が 射 ( さ )し始め、晴々と夜が明けて来た。 陽が射して来ると、空気がからりと乾いて、空の高い、 爽涼 ( さうりやう )な夏景色が 展 ( ひら )けて来た。 第二泊目はユヱで泊つた。 こゝでも、一行はグランド・ホテルに旅装をといた。 日本の兵隊がかなり駐屯してゐる。 ホテルの前に、広いユヱ河が流れてゐた。 クレマンソウ橋が近い。 ゆき子は、こんなところまで、日本軍が進駐して来てゐる事が信じられない気がしてゐた。 無理押しに、日本兵が押し寄せて来てゐるやうな気がした。 このまゝでは果報でありすぎると思つた。 そのくせ、このまゝ長く、この宝庫を占領出来るものなのかどうかも、ゆき子は考へてゐるいとまもないのだ。 自動車が走つてゆくまゝに、身をゆだねて、あなた任せにしてゐるより仕方がない、単純な気持ちだけで旅をしてゐた。 かうしたところで見る、日本の兵隊は、貧弱であつた。 躯 ( からだ )に少しもぴつたりしない服を着て、大きい頭に、ちよんと戦闘帽をつけてゐる姿は、未開の地から来た兵隊のやうである。 街をゆく安南人や、ときたま通る 仏蘭西 ( フランス )人の姿の方が、街を背景にしてはぴつたりしてゐた。 華僑 ( くわけう )の街も文化的である。 都心の街路には、 樟 ( くす )の木の並木が 鮮 ( あざや )かで、朝のかあつと照りつける陽射しのなかに、金色の 粉 ( こ )を噴いて若芽を 萌 ( きざ )してゐた。 赤煉瓦 ( あかれんぐわ )の王城のあたりでは、若い安南の女学生が、だんだらの靴下をはいて、フットボールをしてゐるのなぞ、ゆき子には珍しい眺めだつた。 河のほとりの遊歩場には、 花炎木 ( くわえんぼく )や、カンナの花が咲いてゐた。 河は黄濁して水量も多く、なまぐさい河風を朝の街へ吹きつけてゐた。 旅空にあるせゐか、一行は七人ばかりであつたが、かなり自由に、解放された気持ちになつてゐる様子だつた。 鉱山班の瀬谷といふ老人は、河内からずつと女連の自動車の方へばかり乗り込んで、篠井春子のそばへ腰をかける習慣になつてゐた。 わざと春子の肩や 膝頭 ( ひざがしら )に躯をくつつけて、汗のにちやつくのもかまはずに、図々しくみだらな話をしてゐる。 自分もそんな美しい街へポストを持ちたかつた。 きまつてしまつたものは仕方がないけれども、さうした命令が、女にとつては、顔かたちの美醜にある事も、ゆき子はよく知つてゐる。 ダラットといふ、聞いた事も見た事もない、高原の奥深いところで、平凡な勤めに就く運命が、ゆき子には何となく情けない気持ちだつた。 若い女にとつて、平凡といふ事位苦しいものはない。 一年はどうしても勤めなければならない事も、心には重荷であつた。 東京を 発 ( た )つ時、杉夫が、仏印がいゝところだつたら、俺達も呼んでくれないか、せめて内地の戦時世相から解放されたいと冗談を云つてゐたけれども、杉夫も、保険会社なんかやめて、志願してでも仏印へ来てくれるといゝと空想した。 ユヱで一泊して、海辺のツウフン駅から、一行はサイゴン行きの汽車へ乗つた。 狭い可愛い車体だつたが、二等車は案外、 贅沢 ( ぜいたく )な設備がしてあつた。 ソファや、小卓があり、小さい扇風機も 始終 ( しじゆう ) 気忙 ( きぜ )はしく車室をかきまはしてゐる。 部屋の隣りには、シャワーの設備もあつて、自動車の旅よりはずつと快よかつた。 コオヒイを注文すると、まるで花壺のやうな、深い茶碗に、安南人のボーイが持つて来てくれる。 こゝで、初めて、ゆき子は篠井春子と二人きりの部屋にをさまる事が出来たのだ。 汽車は動揺が激しく、コオヒイ茶碗の花壺のやうな しかけも、この動揺の為なのだと判つた。 自動車の旅と少しも変らない程、 砂塵 ( さぢん )が何処からか吹き込んで来るのには、二人とも閉口だつた。 どんな 贅沢 ( ぜいたく )な設備も、黄ろい砂塵の吹きこむ列車は不潔である。 春子は 何時 ( いつ )の間にどうした手段で求めたのか、絹靴下をはき、 洒落 ( しや )れたラバソールをつつかけてゐた。 そして、汽車に乗る時から気にかけてはゐたのだけれども、春子は、匂ひの甘い香水をつけてゐた。 ゆき子は自分が 惨 ( みじ )めに 敗 ( ま )けてしまつた気で、学校時代のサージの制服を仕立てなほした 洋袴 ( ズボン )に、爪先きのふくらんだ、汚れた黒靴をはいてゐる事に、いまいましいものを感じてゐる。 長い旅路で、紺の洋袴はかなり汚れて来てゐる。 春子の化粧の濃くなつたのを 妬 ( ねた )まし気に眺めながらゆき子は、 「篠井さんはサイゴンに落ちつくなんて幸福だわね」と、云つた。 「あら、いゝところなのか、悪いところなのかは、行つてみなくちや判らないわ。 幸田さんこそ、パスツウルの 規那園 ( キナゑん )なンて、とてもハイカラぢやないの? 貴女 ( あなた )は勉強家だから、すぐ、仏蘭西語も、安南語も覚えちやふでせう。 とても、第一級のところぢやないの? 私、さう思ふわ。 涼しくて、いゝ処なンですつてね……」 ゆき子は、春子が心のゆとりを持つて、慰めてくれてゐる事は、よく判つてゐた。 「でも、人間の数の少ないところつて、淋しいわ。 第一、苦労をともにして来た貴女たちに別れて、誰も知らない山の中へ行くなンて、淋しいのよ。 退屈だらうと思ふの……」 行けども行けども、山野の波間を、汽車は激しい動揺で走つてゐる。 サイゴンに着いたのは夜であつた。 ゆき子は、かうした旅に 馴 ( な )れなかつたせゐか、へとへとに疲れてゐた。 どうかすると、一日のうちに、幾度かわけのわからない熱の出る時もあつた。 サイゴンでは、五日ほど暮す事になり、こゝでまた軍への手続きが相当手間どつで、 独 ( ひと )りになつて街を見物する ゆとりは許されなかつた。 サイゴンでは、軍の指定した旅館で、海防を出て以来、初めて、身分相当な貧しい旅館に落ちついた。 四日目に、篠井春子は、軍報道部に働く中渡といふ男に連れられて、勤めさきの宿舎へ変つて行つた。 ゆき子たちの旅館は、以前は華僑の住宅ででもあつたらしく、飾りつけの何もないがらんとした部屋々々に、折りたゝみ式のベッドがあるだけのもので、安南人の女が二人、ものうさうに部屋々々の掃除をしてまはつてゐる。 茂木技師も、黒井技師も、瀬谷も、ゆき子と一緒にダラットへ出掛ける連中なので、食堂は 何時 ( いつ )も、此のグループだけが部屋の隅に集つた。 しつくひ塗りの青い壁に、粗末な大きい地図が張りつけてある。 紫檀 ( したん )の背の高い卓子が三つほど並び、それぞれの用向きを持つて泊つてゐる連中が、こゝで食事をする。 食堂へ来る顔ぶれは何時も流れるやうに変つてゐた。 ふつと、ゆき子はこの男に注意を 惹 ( ひ )いた。 食事中も、いつも本を読むとか、新聞を読んでゐた。 別に、連れがあるらしくもなく、そこへ腰をかける時間も、場所も、判で押したやうだつた。 色は青黒く、髪の毛の房々とした、 面長 ( おもなが )な顔立ちで、じいつと本を読んでゐる横顔は、死人のやうに生気のない表情をしてゐた。 夜になると、 何処 ( どこ )からか戻つて来て、誰もゐない食堂で、ウィスキーの 壜 ( びん )を前に置いて酒を飲んでゐる。 シャフスキンの半袖シャツを着て、茶色の 洋袴 ( ズボン )をはいてゐるところは、ゆき子には安南人のやうにも見えた。 ゆき子は熱があつたので、時々食堂へ氷を貰ひに行つたが、その男は、何時でも食堂の 椅子 ( いす )に膝をたてた、不作法な腰のかけ方で酒を飲んでゐた。 ゆき子が食堂へはいつて行つても、別に、ゆき子の方を注意するでもなく、ゆつくり孤独を 愉 ( たの )しんでゐるやうな 茫洋 ( ばうやう )とした 風貌 ( ふうばう )をして、酒を飲んでゐる。 此の宿舎の近くには、夜でも 賑 ( にぎ )やかに、レコードやラジオを鳴らしてゐる華僑の飲食店が並んでゐた。 風のむきで、遠くかすかに、食堂のなかへ、父よあなたは強かつたの日本の曲なぞが流れて来る。 食堂の隅で、薬を飲んでゐると、ふつと、ゆき子はこの曲に誘はれた。 何といふ事もなく、酒を飲んでゐる男と話をしてみたい、冒険的な気持ちになつてきた。 ゆき子は、男といふものは、みんな杉夫のやうな性癖を持つてゐるやうであり、旅空のせゐか、誰の紹介もなく話しかけてもかまはないのではないかとも考へる気分になり、そこに散らかつてゐる日本新聞なぞを、ゆつくり読み 耽 ( ふけ )つてゐたりした。 男は、何ものにもとんちやくしない太々しさで、本を読みながら、酒を飲んでゐる。 酒を飲むと、肌に赤味がさして、白い半袖からむき出した、すくすくとのびた腕が、ゆき子の眼をとらへる。 三十四五になつてゐるであらうか。 名前も知らなければ、職業も判らないまゝで、別れるひとなのだと思ふにつけ、ゆき子は一人寝の、狭いベッドへ 這入 ( はい )つてからも、その男の事が始終 瞼 ( まぶた )を離れなかつた。 五日目に、ダラットへ行くトラックの 便 ( びん )があるといふので、茂木技師一行について、ゆき子はまた旅支度をした。 森の都と云ふ意味である。 トラックの上から見る、サイゴンの大通りは、ヨウの大樹の並木が、 亭々 ( ていてい )と並んでゐて、その樹下のアスハルトの 滑 ( すべ )つこい大通りを、輪タクに似たシクロが昆虫のやうに走つてゐた。 繁華なカチナ通りの、タマリンドウの街路樹の下に、水色の服を着た仏蘭西人の子供の遊んでゐるところなぞは、絵を見るやうだつた。 タマリンドウの梨のやうな果実が、るゐるゐと実つて、まるで田園の感じである。 道はちりつぱ一つなく、大樹の並木の下を、 悠々 ( いういう )と往来してゐる安南人や、 華僑 ( くわけう )の服装は、貧弱な日本の服装を見馴れたゆき子には驚異であつた。 急に篠井春子が 羨 ( うらやま )しかつた。 こんな美しい都にとゞまつてゐられる事自体が 妬 ( ねた )ましいのだ。 陽をさへぎつた、うつさうとした並木の下を、日本の兵隊が歩いてゐる。 兵隊は、日本といふ故郷や、軍隊の背景も感じられない、孤独なたよりなさで群れ歩いてゐた。 歩いてゐるといふよりは、そこへ投げ出されてゐるといつた方がいゝかも知れない。 トラックの上にゐる一行の顔も、長途の旅疲れもあるせゐか、 膏 ( あぶら )の浮いた貧しい顔をしてゐた。 ゆき子は、自分も 亦 ( また )その一人なのだと思ひ、何のほこりもない、 日傭 ( ひやと )ひ人夫の娘にでもなつたやうな 佗 ( わび )しいものが心をよぎつた。 ゆき子は内地へかへりたかつた。 ダラットがどのやうな土地なのか、もう、どうでもいゝのだ。 人恋しくて、たつた独りでダラットの高原へなぞ、住んではゐられない気がする。 篠井春子と別れた鉱山班の瀬谷は、手の裏を返すやうに、ゆき子へにこにこした顔をむけた。 「厭に 悄気 ( しよげ )てゐるンだね。 元気を出すんだよ。 何処へ行つたつて、日本の兵隊がゐるンだ。 何も心配する事はない。 しかもだね、たつた一人の日本女性として、責任は重大なりだ。 皇軍とともに働いて貰はなくちやいけない。 夕方であつたが、時々沿道の森蔭に白い 孔雀 ( くじやく )がすつと飛び立つて一行を驚かせた。 夕もやのたなびいた高原に、ひがんざくらの並木が所々トラックとすれ違ひ、段丘になつた森のなかに、別荘風な豪華な建物が散見された。 いかだかづらの 牡丹色 ( ぼたんいろ )の花ざかりの別荘もあれば、テニスコートのまはりに、ミモザを植ゑてあるところもある。 金色の花をつけたミモザの木はあるかなきかの匂ひを、そばを通るトラックにたゞよはせてくれた。 ゆき子は夢見心地であつた。 森の都サイゴンの比ではないものを、この高原の雄大さのなかに感じた。 三角のすげ笠をかぶつた安南の百姓女が、てんびんをかついでトラックに道をゆづるのもゐた。 高原のダラットの街は、ゆき子の眼には空に写る 蜃気楼 ( しんきろう )のやうにも見えた。 ランビァン山を背景にして、湖を前にしたダラットの段丘の街はゆき子の不安や空想を根こそぎくつがへしてくれた。 以前は市の駐在部であつたといふ 白堊 ( はくあ )の建物の庭にトラックがはいつてゆくと、庭の真中に日の丸の旗が高くあげてあつた。 地方山林事務所と書いた新しい看板が石門に打ちつけてある。 その下に、安南語と仏蘭西語で小さく墨の文字で書いた板も打ちつけてあつた。 湖の見える応接間で、一行は事務所長の牧田氏に会つた。 ゆき子はこゝに当分働く事になり、ゆき子だけ安南人の女中に案内されて自分にあてがはれた部屋へ行つた。 二階の一番はづれの部屋で、湖や街の見晴しはなかつたが、北の窓からはランビァンの山が迫つてみえた。 庭にはいかだかづらの花が盛りで、毛の房々した白い犬が芝生にたはむれてゐた。 ゆき子は長い旅の果てに、やつと自分の部屋に落ちついたのである。 チーク材の床には敷物もなかつたが、かへつて涼しさうだつた。 何処 ( どこ )からか運んで来たのであらう、粗末なベッドに、腰高な机と椅子が一つ。 白いペンキ塗りの狭い洋服 箪笥 ( だんす )が、暗い部屋の調和を破つてゐた。 ねぐらを求めて 小禽 ( ことり )が、夕あかりの 黄昏 ( たそがれ )のなかに騒々しくさへづつてゐた。 茂木技師や、瀬谷たちは、ダラット第一級のホテルである、ランビァン・ホテルに牧田氏の自動車で引きあげて行つた。 牧田喜三は、鳥取の林野局をふりだしに、農林省へはいつた人物ださうで、四十年配の太つた小柄な男であつた。 昭和十七年の暮に、軍属として、赴任して来た。 部下は四人ばかりあつたが、みんなそれぞれが、山の分担区に視察に出掛けてゐる様子で、安南人の通訳が二人と、林務官一人、混血児だといふ女の事務員が一人ゐる。 ランビァン・ホテルへ一行とともに夕食の案内を受けたが、気分が悪くて行く気がしなかつた。 ベッドの毛布の上に転がつてゐると、トラックの震動がまだ続いてゐるやうで、耳の中がふたをしたやうに重苦しかつた。 昏々 ( こんこん )と眠りたかつた。 眼を [#「眼を」は底本では「眠を」]閉ぢると、蝉の 啼 ( な )きごゑのやうな、森林のそよぎが耳底に消えなかつた。 洋服箪笥のペンキの匂ひが鼻につく。 その夜、ゆき子は、安南人の女中のつくつてくれた日本食を、広い食堂で一人で食べた。 中央には岩のやうなシュミネがあり、入口近いところにピアノが一台光つてゐた。 のりのきいたテーブルクロースの白い布に手を置くと、黄色の手が、安南人の女中の手よりも汚れた感じだつた。 ガラスのフィンガボールにいかだかづらの花が浮かしてある。 ソーセイジのやうな赤黒いかまぼこや、豆腐汁がゆき子には珍しかつた。 女中はもう三十は過ぎてゐる年配であるらしかつたが、眼の綺麗な女だつた。 額は 禿 ( は )げあがり、渋紙色の 凹凸 ( あふとつ )のない顔に、 粉 ( こ )を噴いたやうな化粧をして、ねり玉の青い耳輪をはめてゐる。 彼女は、かたことの日本語を少し話した。 網戸をおろした広い窓へ、白い 蛾 ( が )の群れが 貼 ( は )りついてゐた。 食事を終つた頃、突然、前庭の方で、自動車のエンジンの音がした。 牧田所長がもう戻つて来たのかと思つたが、それにしては馬鹿に帰りが早いと、ゆき子はきゝ耳をたててゐた。 女中が走つて出て、甘い声で、ボンソアと庭口へ呼んだ。 軈 ( やが )て、男の声で何事か、ごやごやと話す声と足音がして、ぱつと食堂へ這入つて来たのは、サイゴンの宿舎で会つた、ゆき子の注意を 惹 ( ひ )いてゐた、あの男であつた。 背の高い、さくさくした足どりで食堂へ 這入 ( はい )つて来るなり、ゆき子を見て、 一寸 ( ちよつと )驚いた風で、軽く眼で挨拶をして、また、さつさと廊下へ出て行つた。 ゆき子の食事が終つてからも、女中は仲々食堂へは戻つて来なかつた。 ゆき子は 赧 ( あか )くなつてその男に挨拶を返したが、部屋を出て行つたきり、一向に戻つて来る気配もない様子に、 苛苛 ( いらいら )してゐた。 いままで死んだやうにぐつたりしてゐた気持ちのなかに、急に火を吹きつけられたやうな切ないものを感じた。 あわてて、しのび足で部屋へ戻り、ゆき子は洋服箪笥の鏡の中をのぞいて、濃く口紅をつけた。 髪をくしけづり、 粉白粉 ( こなおしろい )もつけて、また、急いで食堂へ戻つたが、網戸を 叩 ( たた )く白い蛾の 気忙 ( きぜ )はしい羽音だけで、広い食堂は 森閑 ( しんかん )としてゐる。 暫 ( しばら )くして、女中がコオヒイを持つて来たが、すぐ、女中はコオヒイを置いて去つて行つた。 いくら待つても、男はつひに食堂へは出て来なかつた。 ゆき子は気抜けしたやうな気持ちで部屋へ戻つて行つた。 広い階段を誰かが上つて来る。 ゆき子は激しい 動悸 ( どうき )をおさへて、扉に耳をあててゐた。 ゆき子は物音が消えると、また食堂へ降りて行つた。 所在なくピアノの 蓋 ( ふた )をとり、女学校時代よく 弾 ( ひ )いてゐた浜辺の歌を片手でぽつんぽつんと鍵を叩いてみた。 壁には森林に就いての統計のやうなものが硝子縁のなかにはいつてゐる。 カッチヤ松とか、メルクシ松、ヨウ、カシ、クリカシなぞの標本図をたどつてゆくと、ゆき子はつくづく遠いところに来たやうな気持ちがした。 誰も食堂へはやつて来さうもないので、ゆき子は庭に出てみた。 星が澄んできらめき渡り、ゴム風船をすりあふやうな、透明な夜風がゆき子の絹ポプリンの重たいスカートを吹いた。 何処からともなく、 香 ( かん )ばしい花の匂ひが来る。 小径 ( こみち )の方で、ボンソア……と 挨拶 ( あいさつ )してゐる女の声がしてゐる。 薄い雲が星をかいくゞつて流れてゐる。 湖は見えない。 部屋へ戻つて窓に 凭 ( もた )れてゐると、暫くしてから、階下の何処かで電話のベルがけたゝましく鳴り、それからすぐ、牧田所長の自動車が戻つて来た様子だつた。 急に階下がざわめきたち、数人の男達の笑ふ声が聞えた。 夜明けに吹く山風で、ゆき子は松風の音を聴いた。 朝の寝覚めに、あの男と、広い芝生でテニスをしてゐる夢をみて、なつかしかつたが、その夢は思ひ出さうとしてもとりとめがなかつた。 またすぐ、こゝを 発 ( た )つて行くひとだらうか……。 それにしても、同じ屋根の下に二度も吹き寄せられる人間の奇遇を、ゆき子は 愉 ( たの )しいものに思つた。 念入りに化粧をして、粗末な布地ではあつたが、白絹のワンピースを着て、朝の食堂に降りて行くと、牧田氏と、あの男が、網戸をあげた、広い窓辺でコオヒイを飲んでゐた。 血色のいゝ牧田氏は、にこにこして朝の挨拶をしてくれたが、あの男はゆき子に対して一べつもくれなかつた。 窓へ足をあげて、不作法な腰掛けかたで、もやでかすんでゐる湖を見てゐた。 情 ( じやう )のないしぐさで、そんな風なスタイルを見せる一種のポーズが、ゆき子には、中学生のやうな がんこさに見えた。 「どうです? 幸田さん、こつちへいらつしやい。 道中が長いンで疲れたでせう? サイゴンでは、富岡君と同じ宿舎だつたンださうですね?」 ゆき子がその男の方を不安さうに見たので、牧田氏は、小さい声で、 「君、幸田君つてね、これから、当分こゝで、タイプの方をやつて貰ふひとなンだよ。 半年位して、パスツウルの方へまはつて貰ふンだがね……」と、云つた。 男は初めて、幸田ゆき子の方へ 躯 ( からだ )を向けた。 それでも腰かけたなりで、「僕、富岡です」と挨拶した。 「何だ、初めてなのかい? 紹介済みかと思つてたンだよ。 こちらは富岡兼吾君、やつぱり本省の方から来たひとで、三ヶ月程前にボルネオから転任して来たンだ。 ここぢや、幸田さん一人だからね」 ゆき子は、 革張 ( かはば )りのソファに遠く離れて腰をかけた。 昨夜、ホテルのロビーで、瀬谷が、ゆき子の事を、地味な女だから、かへつて、仕事にはいゝだらう。 サイゴンに置いて来た篠井といふ女は、これは一寸美人だから問題を起しはしないかと心配してゐるンだと話してゐたが、かうして遠くから見る幸田ゆき子の全景は、瀬谷の云ふほど地味な女にも見えなかつた。 珍しくパアマネントをかけてゐないのも気に入つた。 第一、つゝましい。 きちんとそろへたむき出しの脚は、スカートの下からぼつてりとした肉づきで、これは故国の練馬大根なりと微笑された。 畳や障子を思ひ出させるなつかしさで、なだらかな肩や、肌の 蒼 ( あを )く澄んだ首筋に、同族のよしみを感じ 合掌 ( がつしやう )したくなつてゐた。 少々額の広いのも、女中のニウよりは数等見ばえがした。 混血児のマリーのやうに、六角眼鏡をかけてゐないのも気に入つた。 日本の若い女が、はるばるとこの高原へ来て呉れた事が牧田氏には夢のやうなものであつた。 昔は海外へなぞ出て行く女に対して、あまりいゝ気持ちは持てなかつたのだが、幸田ゆき子は、牧田氏には案外印象がよかつた。 化粧も案外上手である。 瀬谷の云ふほどの女ではなかつた事が牧田氏を幸福にした。 大きな卓上にはカンナの花が 活 ( い )けてあつた。 牧田氏は至つて機げんよく富岡と専門的な話をしてゐた。 ゆき子はうつとりして、明るい窓の方を見てゐたが、心はとりとめもなく流れてゐた。 富岡は煙草をくゆらしながら、両腕を椅子の後に組んで、後頭部を 凭 ( もた )れさしてゐた。 左腕の黒い文字板の時計に、赤い秒針が動いてゐた。 アイロンのきいた茶色の防暑服を着て、涼し気なプラスチックの硝子めいた細いバンドを締めてゐる。 剃 ( そ )りたての襟筋が青々としてゐた。 軈 ( やが )て食堂のベルが鳴つた。 牧田を先にたててゆき子が富岡の後から食堂へ這入つて行くと、白いテーブルクロースの上に、白や紫の珍しい花が硝子の鉢に盛られ、アルマイトの赤い器に、豆腐の味噌汁が出てゐた。 玉子焼や、桃色のあみの塩辛なぞが次々に運ばれた。 ゆき子は富岡と並んで牧田氏の前に腰をかけた。 ホテルに泊つた茂木、瀬谷、黒井なぞはまだ事務所に顔をみせない。 天井にしつらへてある扇風機が厭な音で 軋 ( きし )つてゐた。 牧田氏は味噌汁をずるずるとすゝりながら、 「内地は段々住み 辛 ( づら )くなつてるさうですが、こゝにゐれば 極楽 ( ごくらく )みたいでせう?」 と、ゆき子へ話しかけて来た。 極楽にしても、ゆき子はかつてこんな生活にめぐまれた事がないだけに、極楽以上のものを感じてかへつて不安であつた。 富豪の邸宅の留守中に上り込んでゐるやうな不安で空虚なものが心にかげつて来る。 時々、富岡は、サイゴンの農林研究所の話や、山林局の仏人局長に対する日本の乱暴なやりかたに就いてひなんをしてゐた。 第一、貧弱な日本人が、コンチネンタル・ホテルなぞにふんぞりかへつてゐる 柄 ( がら )でないなぞと、牧田氏も小さい声で 相槌 ( あいづち )打ちながら、あんな大ホテルを 兵站 ( へいたん )宿舎なぞにして、軍人が引つかきまはしてゐる事は、占領政策としても、かへつて反感を呼ぶ事ではないかと話した。 「我々は幸福と云ふものだ。 軍の目的は 兎 ( と )に 角 ( かく )として、我々は自分の職分にしたがつて森林を 護 ( まも )つてやればいゝンですよ。 充分にめぐまれた仕事として、それだけは感謝してゐるからね……」 富岡は、十日ばかりをサイゴンに暮し、ルウソウ街にある農林研究所で、ガス用木炭に関する研究を行つてゐた。 富岡は、パン食であつた。 ふつと、手をのばして、バターの皿を取つてくれた幸田ゆき子の手を見た。 肉づきのいゝ日本の女の手を、珍しさうに見た。 美しい優しい手だと思つた。 生毛 ( うぶげ )が生えてゐる。 「四五日うちに、ランハンに行きたいと思つてゐます。 竹筋混凝土 ( ちくきんコンクリート )の研究を、一寸見て来ようと思つてゐます。 加野君が、薪炭林の中間作業に就いての詳細をよこしてゐましたが、御覧になりましたか。 加野君の書いたもの、いつぺん眼を通しといて下さいませんか。 トラングボムの研究所にも行つて、加野君にも逢つてやりたいと思つてゐます……」 富岡はぼそりと、そんな事を云つて、さつさと先に応接間へ戻つて行つた。 「随分変つた方ですのね……」 無遠慮に部屋を去つて行つた富岡に対して、思はずゆき子は牧田氏に、こんな事を云つた。 「風変りな人間でね、だが、あれで、仲々情の深い男なンですよ。 三日に一度、きちんと細君に手紙を書いてをる……。 私には仲々そんな真似は出来ない。 責任感の強い男で、一度引き受けたら、一つとして間違つた事がない奴ですよ……」 三日に一度、細君に手紙を書いてゐるといふ事が、何故だか、ゆき子にはがんと胸にこたへた。 二日目の夕方、牧田氏は急用で、サイゴンからプノンペンまで事務上の用事で十日ほど出張する事になつた。 丁度、帰途をともにする瀬谷老人と二人で、一行はトラックで出発した。 茂木や黒井は、安南人の通訳の案内で、分担区へ視察に出てゐて、あとへ残つたのは、富岡とゆき子だけであつた。 富岡は、二階の中央にある東側の一番いゝ部屋を持つてゐた。 一番いゝ部屋といつても、清潔な病室のやうな部屋であつた。 三日おきには、細君に手紙を書いてゐる富岡に対して、ゆき子は、妙に 白々 ( しらじら )しい感情になつてゐた。 食堂であつても、富岡は「おはよう」とか、「やア」とか云ふ位で、タイプの仕事は、マリーの方へまはしてゐるやうだつた。 タイピストのマリーは、仕事に飽きて来ると、食堂へ行つてはピアノを 弾 ( ひ )いてゐた。 その音色は高原のせゐもあつたが、仲々いゝタッチで、ゆき子には曲目は判らなかつたけれども、時々きゝほれてしまつた。 富岡も、音楽が好きとみえて、仕事机で、 呆 ( ぼ )んやりピアノに耳をかたむけてゐる。 マリーは二十四五歳にはなつてゐるらしかつたが、眼鏡のせゐか 老 ( ふ )けてみえた。 几帳面 ( きちやうめん )な家庭の娘だといふ話である。 羚羊 ( かもしか )のやうなすんなりした脚で、 何時 ( いつ )もネビイブルウのソックスに、白い靴をはいてゐた。 腰の線がかつちりしてゐて、後から見る姿は 楚々 ( そゝ )とした美しさだつた。 髪は薄い金茶色で、ゆるいウェーブをかけた断髪が、肩で重たく波打つてゐる。 何の芸もないゆき子は、マリーのピアノを聴くたび、人種的な貧弱さを感じさせられた。 マリーは英語も仏蘭西語も、安南語も達者で、仕事もてきぱきしてゐた。 何もわざわざ、この遠い仏印の高原にまで、ゆき子のやうな無能な女が呼びよせられる必要もないではないかと、ゆき子はふつとそんな事を考へる時があつた。 ゆき子の仕事は邦文タイプを打つ仕事で、或ひは秘密な書類をつくる仕事に重要なのかも知れないと、自らを慰めて、無為な時間を過すのだつた。 牧田氏が急に旅立つたので、富岡のランハン行きは延びたが、五日ほどたつた或日、トラングボムから加野久次郎が、ひよつこり安南人の助手を一人連れてダラットへ戻つて来た。 加野は戻つて来るなり、事務所の幸田ゆき子を見て、 吃驚 ( びつくり )した表情で、顔を 赧 ( あか )らめた。 富岡の紹介で加野とゆき子は挨拶しあつた。 物事に精根をかたむけ尽しさうな、ひたむきな青年らしさで、すぐ、富岡と椅子を寄せあつて、仕事の話を始めてゐる。 「何かい、少しは長くゐられるの?」 「どうも、 下痢 ( げり )ばかりしちやつて、あまり工合もよくないしね、それに、ダラットの文明も恋しかつたンだ。 富岡さんが戻つてるとは思はなかつた……」 長い話のあと、二人はこんな事を云つて、コオヒイを女中に持つて来させて、 如何 ( いか )にもなつかしさうな間柄のやうであつた。 加野は富岡よりは若く見えた。 男にしては色が白く小柄で、紺の開襟シャツに白い 半洋袴 ( はんズボン )をはいて、スポーツ選手のやうな軽快さがあつた。 躯つきとは反対に眼の色はいつもおどおどしてゐて、相手の顔を正しく正視出来ない気の弱さがある。 晩餐 ( ばんさん )の食堂で、久しぶりに 賑 ( にぎ )やかな食事が始まつた。 アペリチーフに、富岡がサイゴンから手に入れた、 白葡萄酒 ( しろぶだうしゆ )を抜いた。 ゆき子にもさされた。 「幸田君は、千葉かい?」 酒に酔つたせゐか、無口な富岡がふつと、ゆき子に、こんな事を尋ねた。 「あら、千葉ぢやないわ。 失礼ね……」 「え、さうかなア、千葉型だと思つたンだがね。 ぢやア何処?」 「東京ですわ……」 「東京? 嘘つけ。 東京生れには、幸田君のやうなのはないよ。 あれば、 葛飾 ( かつしか )、四つ木あたりかな……」 「まア! ひどい方ね」 ゆき子は侮辱されたやうでむつとした。 加野がみかねて、 「富岡さんは無類の毒舌家なンだから、気にかけないでいらつしやい。 これが、このひとの 病 ( やまひ )なンですよ……」 「さうかなア、東京かなア……。 江戸ツ子にしちやア 訛 ( なまり )があるよ。 幸田君はいくつ?」 「いくつでもいゝわ……」 「二十四五かな……」 「あら、私、これでも二十二なンですよ。 本当にひどい方ねえ、富岡さんて……」 「あゝさうか、二十二ね、女のひとが二十四五に見えるつてのは、 利巧 ( りかう )だつて云ふ事だよ。 若く見て貰ひたいなンて 愚 ( おろ )かな事だ」 富岡は今度は、コアントロウの 瓶 ( びん )を出して来て、 栓 ( せん )を開けた。 加野は富岡と同じ東京高農の出で、先輩の富岡と安永教授の引きで仏印へ森林業の研究に赴任して来たのである。 富岡も加野も文学好きで、富岡はトルストイファンであり、加野は漱石信者であり、武者小路の心酔者でもあつた。 「はるばると仏印のダラットへ進駐して来た、幸田女史の為に乾杯!」 加野がさう云つて、グラスをゆき子の前へ差し出した。 ゆき子は涙ぐんでゐた。 抵抗したい気持ちだつた。 富岡は酔つた眼に、ゆき子の涙を浮べてぎらぎら光る 眼差 ( まなざ )しを見た。 その眼の色のなかには、不思議な魔力があつた。 女房の眼のなかにも、時々こんな光りがあつたと思つた。 わけのわからないとまどひで、富岡はコアントロウをぐつとあふつた。 ゆき子は此の場に耐へられなくて、そつと椅子をずらして部屋を出た。 二階の自分の部屋に上つて行くには、あまりに戸外は美しい夜であつた。 ゆき子は夜露に光つた広い路を降りて、あてどなく歩いた。 「気にして、出ちやつたよ……」 加野は、ゆき子を二階まで追つて行き、ゆき子の部屋の扉を叩いたが、返事がなかつた。 鍵が開いてゐたので、ノブをまわすと、燈火がかうかうとついたベッドの上に、女学生のはく、黒いパンツがぬぎすててある。 加野は 暫 ( しばら )くそこに立つてゐた。 食堂へ戻つてからも、加野は、黒いパンツが瞼にちらついた。 「取り澄ましてる女ぢやないか?」 富岡が吐き捨てるやうに云つた。 加野は外へ出て行つたらしいゆき子を考へて、探しに行つてやりたい気持ちだつた。 「三宅邦子つて女優に似てゐないかね?」 加野が云つた。 「そんなの知らないよ。 若い女がこんな処まで来るのは厭だね」 「案外古いンだなア……。 僕はダラットが 一寸 ( ちよつと )よくなつて来た……」 「幸田ゆき子は、加野には似合はないよ」 加野は、コアントロウを 手酌 ( てじやく )でやりながら、血走つた眼で、天井の動かない扇風機の白いプロペラを見上げてゐた。 富岡は如何にもものうさうに金網の窓ぶちに足をあげて、椅子の背に頭を 凭 ( もた )れさしてゐた。 「 何時 ( いつ )まで、この生活が続くかなア……」 溜息 ( ためいき )まじりに富岡が云つた。 「勝つとは思へないよ」 加野はけゞんさうな顔を富岡へ向けた。 「サイゴンで、そんな風に思つたンだ。 ねえ、大きい声ぢや云へないが、来年の春がやまぢやないかね?」 「奥地へ這入つてると、何も判らンが、そんな気配があるの? 何かニュースあつた?」 「絶対に勝てやしないよ。 それだけだよ」 「さうかねえ、俺は大丈夫だと、信じてゐるンだ。 日本の海軍つてものは、どうしてるンだらう……」 「策はあるンだらう……。 戦果が毎日 挙 ( あが )つてるぢやないか」 加野は、黒いパンツを瞼から取り去れないもどかしさで、立つて、扇風機のスイッチを入口へ押しに行つた。 白いプロペラは、ネヂがきりきりとまはるとみるまに、ぶうんと 唸 ( うな )り始めた。 卓上の花が風に強くゆるぎだした。 幸田ゆき子は暫くたつても戻つて来なかつた。 富岡は扇風機の風に吹かれて、椅子の背に頭を 凭 ( もた )れさしたまゝ眠つてゐる。 加野は扇風機をとめた。 そして、静かに食堂を出て行つて、ゆき子を探しに戸外へ出てみた。 ヒガンザクラのこんもりした暗い並木のあたりで、夜烏が 啼 ( な )いた。 濡 ( ぬ )れて、ぴたりと動きがとまつたやうな空だつた。 淡い燈かげが、樹間にちらついてゐる。 山林事務所のすぐ下の方に、 華僑 ( くわけう )の別荘風な、でこでこした建物があつた。 暫く人も住まないと見えて、庭は荒れてゐたが、南洋バラとでもいふのか、雪のやうに小さい花をつけた、生垣の中に、かすかに歌声が聞えた。 日本の歌だ。 あつ、このなかにゆき子がゐるのだなと、加野は芝生の方から這入つて行つた。 虫がしきりに啼きたててゐる。 背中の 反 ( そ )つた、ゆつたりした木のベンチに、ゆき子が腰をかけて、歌つてゐる。 ゆき子は加野だと判つてゐた。 歌をやめて、暗い庭を 透 ( す )かすやうにして、立ちあがつた。 「どうしたの? 怒つたの?」 「何でもないのよ……」 「帰らない? 夜露にあたつちや毒だ。 こんなところで、蚊にでもさゝれて、病気しちやア毒だよ……」 「あとで、一人で帰ります……」 「あいつはね、いゝ人間なンだけど、毒舌家なンだ。 一つは神経衰弱もあるかも知れないね……」 加野は、ゆき子の肩へ手をかけたが、薄い絹地をとほして、案外柔い女の肉づきに、全身が熱くなつた。 酒の酔ひがまはつたせゐか、自制するにはあまりに辛く、加野はゆき子の柔い肩の肉を、二三度熱い手でつかんだ。 ゆき子は、くるりと加野の手をすり抜けたが、ゆき子自身も、自制出来ないやうな胸苦しさになつてゐる。 本能的に、毒舌家の富岡を、ひどいめにあはせてしまひたいやうな、反抗の気が 湧 ( わ )いた。 こんな、白い肉の男なぞ、少しも興味はないのだ。 ゆき子は黙つて立つてゐた。 加野は、もう一度、不器用に、ゆき子のそばへ寄つて来た。 遠くで、ホテル行きの、自動車のエンジンがかすかに 唸 ( うな )つて、往来してゐる。 今日、トラングボムから戻つて来たばかりで、ゆき子に 惹 ( ひ )かれる気持ちは、これは慾情だけなのかと、加野はちらりと、その思ひにかすめられたが、現在をおいては、他に此の女を得る機会がないやうな気がしてゐた。 加野はもう一度、ぴつたりゆき子に 躯 ( からだ )を寄せてみた。 ゆき子はぎらぎら光つた 眼差 ( まなざ )しで、加野を見つめた。 むれた雑草や、花の匂ひが夜気にこもつてゐる。 時々、ちいつと草の茎が鳴つた。 「加野さん、私ね、内地では、どうにも仕様がなくつて、こゝへ志願して来たンですの……。 加野さんは、お判りになるでせう? あの戦争のなかで、若い女が、毎日、一億玉砕の精神で、どうして暮してゆけて? 私、気まぐれで、こんな遠いところへ、来たンぢやないのよ……。 何処かへ、流れて行きたかつたの。 生き苦しい気持ちで 辿 ( たど )りついたものを、高いところから、せゝら笑ふなンて失礼よ……」 突然、ゆき子が 甲高 ( かんだか )い声で云つた。 加野は、激情を宙に浮かしたまゝ、獣のやうに光つたゆき子の眼を 覗 ( のぞ )き込んでゐたが、生き苦しくて、こゝへ来たのだと云はれて、ゆき子の背景にある、内地の状態がぐるりと眼に浮んだ。 「富岡は、酒に酔つてるンだよ……」 加野はさう云つて、また、大胆に、ゆき子の二の腕を、両の手で強く握り締めた。 「厭ツ! 加野さんも、酒に酔つていらつしやるのねッ、私は、違ふのよ……」 ゆき子は固くなつて、云つた。 眼を閉ぢたが、別に加野の手をふりほどきもしなかつた。 矢庭に熱い加野の唇が頬に触れた。 咄嗟 ( とつさ )に、ゆき子が顔を動かした。 加野の唇はゆき子の頬に突きあたつて、あへなく離れた。 道の方で、「おーい、加野君!」と呼んでゐる、富岡の声がした。 加野は小さい声で、ゆき子に、 「貴女も、後から戻つていらつしやい」 と、云つて、素直に加野は、すたすたと草の中を分けて、道へ出て行つた。 富岡は、黙つて草の中から出て来た加野に、急に不快なものを感じてゐる。 加野は云ひわけめいた事も云はずに、黙つて、富岡と歩調をあはせて、相手の不快らしい反射を浴びたまゝ、事務所の方へ戻つて行つた。 夜気は涼しく、夜露で、靴がアスハルトに滑りさうだつた。 「内地はそろそろ雪だね……」 富岡が生あくびのあと、ぼつりと云つた。 「あゝ、帰りたい。 一度でいゝから帰りたいなア……」 加野は、息苦しくて、流れて来たのだと云つたゆき子の、思ひ詰めた、さつきの言葉が胸に引つかゝつて返事もしなかつた。 「幸田ゆき子は、相当怒つてるの?」 富岡が何気なく、煙草を出して、長い 紐 ( ひも )つきのライタアを、指の先きで 弾 ( はじ )きながら云つた。 「あゝ、怒つてるね」 「さうか……」 「いゝ娘だよ」 「ほう……いゝ娘かね? 彼女は、娘なのかね……」 「娘だよ。 手ひどくやつつけられた」 かへつて、現在白状しておく方が好都合だと、加野は正直に告白した。 富岡は、煙草を吸ひながら黙つて歩いた。 「君は、内地に好きなひとはなかつたのかい?」 「なくもないさ……」 「ふうん……」 加野は、曲り道で、後を振りかへつて見たが、ゆき子の姿は坂の下には見えなかつた。 「おい、明日、フイモンまで、自動車で釣りに行かないか?」 富岡の道楽は釣りであつた。 フイモン附近には、四つの 飛瀑 ( ひばく )があり、富岡はフイモンは 馴染 ( なじ )みの場所である。 加野は釣りに行く気はない。 そんな悠々とした気持ちにはなれなかつた。 久しぶりに山の中から戻つて来たのである。 人間が見たかつたし、 切 ( せつ )ない感情が胸の中に 渦 ( うづ )を巻いて、ここまで、戻つてゐるのだつた。 久しぶりに富岡に逢つた事も嬉しかつたが、思ひがけない幸田ゆき子との出逢ひは、野火のやうに火を噴いた。 黒いパンツを見た時の、脚のすくむ感情は、現在、加野にとつて、どうしやうもないのである。 加野は返事もしないで、ぴゆつと犬を呼ぶ時の口笛を吹いた。 自動車 小舎 ( ごや )の方で、 微 ( かす )かに犬が吠えた。 「牧田さんはうまい事したなア、サイゴンとプノンペンでは、久しぶりのオアシスだね……」 「うん」 「富岡さん、サイゴンで、面白い事あつたの?」 「面白い事なンかあるもンか」 「さうかなア……。 さうでもないだらう?」 「君も、トラングボムへ帰る迄に、一度、サイゴンへ行つて、さつぱりして来るンだね……」 「サイゴンか……。 久しく行かないなア……」 加野は、サイゴンなんか、どうでもよくなつてゐた。 今夜の、星あかりに見た、ゆき子の、獣のやうな眼の光りが忘れられなかつた。 どうしても話しあつてみたかつた。 そして、あの淋しさを慰めてやりたかつた。 少し夜風に吹かれたせゐか、さつきの激しい 動悸 ( どうき )もをさまり、自分のせつかちな乱暴さが、後悔された。 気まぐれで、こゝへ流されて来たのではないと、泣きさうになつて云つた、あの思ひは、考へてみると、自分にも通じるものがあつた。 兵隊に行くよりはいゝのだ。 あの言葉は、忘れ去つてゐた古傷に、さはられたやうな痛さである。 赤羽の工兵隊に召集されて、 南京 ( ナンキン )攻略に行つた時の、あの 憂欝 ( いううつ )な戦争が、 脳裡 ( なうり )をかすめた。 何といふ湖だつたか、暗い夜、船の中に女をしのばせて、あわただしいあそびかたをした思ひ出が、影絵のやうに加野の 瞼 ( まぶた )に浮んだ。 富岡は面白くもなかつたので、食堂の前で加野に別れると、さつさと二階へ上つて行つた。 夜光時計を見ると、十一時をかなりまはつてゐた。 部屋へ這入ると、女中のニウが、富岡の洗濯物を整理して、棚へしまつてゐた。 にぶい動作で、片づけてゐる。 富岡はゆつくり片づけてゐる、ニウの様子にやりきれない淋しさになり、 裏梯子 ( うらばしご )から標本室の方へ降りて行つた。 標本室に燈火をつけて、円い木の椅子に、腰を掛けた。 陳列に並んだ、乾いた標本を、ひとわたり眺めながら、何のために、こんなところに所在なく腰を掛けてゐるのか、自分で自分が判らなくなつてゐた。 部屋へ戻つて、久しぶりに妻へ手紙を書かうと思つた。 サイゴンへ旅をして、十日あまり、故国へは音信もしてゐない。 しみじみした淋しさの思ひは、妻へだけは云へるやうな気がした。 あらゆるものの乏しい内地にあつて、云ふに云へない苦労を、一人で続けてゐるであらう妻の姿が、はうふつとして浮んで来る。 サイゴンで買つた、ミッチェルの口紅や、 粉白粉 ( こなおしろい )を、近々好便を選んで内地へ送つてやりたいと、富岡は妻の邦子に、そんな事も書き添へてやりたかつた。 咽喉 ( のど )が乾いたので、標本室を出て、食堂へ行つた。 加野がまだ食堂で残りのコアントロウをかたむけてゐた。 「幸田女史は戻つたやうかね?」 「あゝ、戻つて、自分の部屋へ行つた」 富岡は、水を飲み、またゆつくりと二階へ上つて行つた。 部屋には、もうニウはゐなかつた。 富岡は扉に鍵をかけて、ベッドへ後ざまに寝転んだ。 バネがきしきしとたわむ音を聞きながら、じいつと、天井のくもり 硝子 ( ガラス )の電燈を見つめてゐた。 心に去来するものは、何もなかつた。 水のやうな、淋しさのみが、しいんと、濡れ手拭のやうに、額に重くかぶさつて来る。 横になつてしまふと、妻へ手紙を書く事も、ひどく、 億 ( おく )くふになつて来た。 軈 ( やが )て、富岡は黄ろいパジャマに着替へた。 思ひをこめて洗濯してある、アイロンのすつきりしてゐる寝巻き……。 ニウの情けが哀れであつた。 毛布を蹴つて、シーツに楽々と横になる。 加野の奴、加野の奴と、ふつと、そんな言葉を胸のなかで富岡はつぶやく。 幸田ゆき子のすくすくした 躯 ( からだ )つきが、妻の邦子に 何処 ( どこ )か似てゐた。 第一に、言葉のニュウアンスが通じたといふ、妙な発見が、富岡の心に響いた。 同じ人種の男女に 丈 ( だけ )、通じあふ、言葉や、生活の、 馴々 ( なれなれ )しさが、こゝに一人現はれた、幸田ゆき子によつて示されたかたちだつた。 軈 ( やが )て隣りの部屋では、乱暴に椅子を引き寄せたり、洋服箪笥を開けたりしてゐる、加野の 苛々 ( いらいら )した気配が聞えてゐた。 富岡は寝つかれなかつた。 標木室の電燈を消す事を忘れてゐたやうな気がして、富岡はまた、のこのこ起き出して、廊下へ出て行つた。 階下へ降りると、ニウが水色の部屋着を着て、標本室の入口に立つてゐた。 「燈火を、消し忘れたンで、降りて来たンだ」 富岡が、安南語でさゝやくやうに云つた。 「私も、いま、燈火を消しに来たのです」 ニウはさう云つて、自分で、長い部屋着の 裾 ( すそ )を前でつまむやうにして、背延びをして、壁のスイッチを切つた。 富岡は重たくぶつつかつて来る女の躯を抱きしめた。 ニウが何か云ひさうだつたので、富岡はあわてて、ニウの唇に接吻した。 長い接吻のあと、小柄な女の躯を壁に立てかけるやうにして、富岡は二階へ上つたが、ニウが、かすかに笑ひ声をたてたやうな気がした。 二階の 梯子 ( はしご )を上りながら、富岡は銅像の団十郎のやうに、眼をむきながら、ゆつくりと部屋へ這入つた。 静かな晩である。 風の吹く日は、山鳴りのやうな、松の 唸 ( うな )りがするものなのだが、今夜は松の唸りも聞えなかつた。 富岡は、松の森林を 瞼 ( まぶた )に描いてみた。 馬尾松の房のやうに、長い葉の頼りなさや、メルクシ松の 箒 ( はうき )のやうな形状、カッチヤ松の淡い色彩。 小旗のやうな破れかぶれの枝工合なぞが、次々と瞼に現はれては消える。 バンヂャルマシンの町で見た、 五月 ( さつき )信子の、慰問の芝居なぞがなつかしかつた。 演 ( だ )しものは、「時の氏神」だつたかな……。 海のやうに広い、黄濁した河幅いつぱいに、ヒヤシンスに似た、イロンイロンの大群の水草の流れには、富岡は驚いたものだつた。 あれもこれも、過ぎ去つた一夢であらうか……。 植物は、その土地についたものでなければ、うまく育たないものなのだと、現に、このグラットの、山林事務所の庭先に、植栽されてゐる、日本の杉の育ちの悪さを、富岡は、民族の違ひも、また、植物と同じやうなものだと当てはめて考へてみる。 植物は、その民族の土地々々にしつかり根づいたものではないのかと、妙な事を考へ始め出した。 幹形、 木理 ( もくめ ) 麗 ( うる )はしいと云つたところで、大森林のメルクシ松を、世界の何処へ売り出さうと云ふのだ……。 長年かゝつて成育させた、人の財宝を、突然ひつかきまはしに来た、自分達は、よそ者に過ぎなからうではないか……。 いつたい、これだけの雄大な山林を、日本人がどう処理してしまふのだらう……。 人間の心は自由である。 富岡はうつらうつらと、とりとめもない、幼い事を考へてゐた。 一向に眠れない。 富岡は燈火を消した。 燈火を消すと同時に、隣室の加野が、ドアを開けて、また、ゆつくりした足音をたてて、階段を降りて行つた。 ……まさかと、妙な考へを打ち消しながら、富岡は耳をそばだててゐた。 長い間の、山歩きの禁慾生活が、加野を物狂ほしくしてゐるのだと、富岡はきゝ耳をたててゐた。 頭をしづかに枕に沈ませる。 さつき、ニウとひそかに接吻した、自分のいやらしさが、急にむかついて来た。 加野も自分も、恋ではないものを恋してゐるのだ。 二人とも、内地にゐた時の、旺盛なエスプリを失つてしまつてゐる。 ダラットの高原に移植されて、枯れかけてゐる日本の杉のやうなものになりつつある。 自分達を、富岡は、何気なく、南洋 呆 ( ぼ )けかなと、 咽喉 ( のど )もとでつぶやいてみるのだつた。 「ボンヂュウル……」 マリーの柔い、朝の挨拶が、階下の踊り場で聞えた。 重い頭を枕から持ち上げて、富岡は、腕時計を眺めた。 九時を指してゐる。 そんな時間なのかと、ゆつくり起きて、富岡は 暫 ( しばら )くベッドで煙草を吸つた。 づきづきと頭が痛んだ。 何をしたらいゝのか、一向に、躯は動きたがらない。 すべてが 茫々 ( ばうばう )としてゐる。 小禽 ( ことり )が可愛くさへづつてゐた。 ゆつくりと窓を開けると、かあつとした高原の空と、緑は、お互ひに、上と下とが反射しあつてゐるかのやうな 爽涼 ( さうりやう )さであつた。 渋色の、光つて冷たさうな服を着た、ニウが、広い庭隅の花畑に立つてゐた。 疲れを知らない、女の健康さが、富岡は憎くもある。 長い接吻をしたあと、昆虫のやうな笑ひ声をたてた、ニウの心の中が、富岡には不思議であつた。 思ひきりのびをして、また、ゆつくりと、ベッドに腰をかける。 躯を動かす事自体に無意味なものを感じる。 富岡は、顔を洗ひに洗面所へ出て行つたが、その 序 ( ついで )に、加野の扉を 叩 ( たた )いてみた。 返事がなかつた。 ノブに手をかけると、扉はニスの匂ひをさせてすつと開いた。 窓は開けつぱなし、床には服をぬぎすてたまゝ、加野は 茶縞 ( ちやじま )のだんだら模様のパンツ一つで、裸でベッドに寝てゐた。 むきたての玉子のやうな、 蒼味 ( あをみ )がかつたすべすべした肌で、うつぶせになつて眠つてゐる。 唇は開いたまゝ時々、 樋 ( とひ )に水の溜るやうないびきをあげてゐる。 天地無情の姿かなと、富岡は、加野の冷い肩を大きくゆすぶつて起した。 加野はにぶく眼を開けた。 昨夜の痴情の為か、眼が血走り、視線がさだまらない様子だつた。 富岡は、そのまゝ洗面所に行き、冷たいシャワーを浴びた。 朝になつたのだ、何事もないぢやないか……。 昨夜の 妖怪変化 ( えうくわいへんげ )は 雲散霧消 ( うんさんむせう )してしまつたのだ。 大判のタオルにくるまり、急いで二階へ 馳 ( か )け上る元気が出た。 アイロンのきいた、白い半袖の上着に、ギャバヂンの茶色の 長洋袴 ( ながズボン )をはいて、鏡の前で苦手な 髯剃 ( ひげそ )り作業にかゝる。 コオヒイの香ばしい匂ひが二階までのぼつて来た。 教会の鐘が鳴り始める。 身支度をとゝのへて、食堂へ降りて行くと、窓ぎはに、幸田ゆき子が、独りで食事をしてゐた。 「お早よう……」 ゆき子は泣き 腫 ( は )れたやうな眼で、富岡の挨拶に微笑しただけであつた。 富岡は、ゆき子の優しい表情を見て、照れ臭かつた。 そのまゝ怒つたやうに、自分の席へ行き、さつさと食事を始めた。 食事を運ぶニウも、まるきり人が変つてしまつてゐる。 仏像のやうな表情のない顔で、コオヒイや、トーストを運んで来る。 事務所の方では、マリーの打つタイプの音が 忙 ( せ )はしさうだつた。 食事を済まして、富岡は 漂然 ( へうぜん )と、四キロほど離れた、マンキンへ行く気になつた。 安南王の陵墓附近の、林野巡視の駐在所まで、一人で出掛けて行つた。 気持ちが屈してゐる時は、釣りに出て行くよりも、むしろ、森林を相手に自問自答した方が快適であらう。 キイッと、耳をつんざく、裂かれる樹木の悲鳴を聞きながら、曲りくねつた、勾配のある自動車道を、富岡は黙々として歩いた。 沿道は巨大なシヒノキや、オブリカスト、ナギや、カッチヤ松の森で、常緑 濶葉樹林 ( くわつえふじゆりん )が、枝を組み、葉を 唇 ( くち )づけあつて、朝の太陽を 欝蒼 ( うつさう )とふさいでゐた。 空は切り開いた森の中を、河のやうに青く流れてゐた。 人の歩いて来る気配で、富岡が、ふつと後を振り返ると、意外な事には、幸田ゆき子が、白いスカートをなびかせながら、急ぎ足で歩いて来てゐた。 富岡は、自分の眼のあやまりではないかと思つた。 立ち停つてやつた。 ゆき子は、息をはずませながら近寄つて来た。 「どうしたの?」 「私、今日の仕事、何をすればいゝンでせう?」 「仕事?」 「えゝ……」 「加野君は?」 「とてもよく眠つていらつしやいますわ」 安南人の林務官がゐる筈だが、来たばかりの幸田ゆき子には言葉が判らないのだ。 「牧田さん、何か、仕事を云ひつけてゆかなかつたの?」 「いゝえ、何もおつしやいませんわ……」 二人は自然に、マンキンの方へ歩を運んだ。 富岡は黙つて歩いた。 ゆき子も黙つて富岡の後からついて行つた。 時々、軍のトラックや、自動車が通る。 運転してゐる兵隊が、日本の女を見て、はつと驚いたやうな表情で通り過ぎて行つた。 ゆき子は富岡からわざと離れて歩いてゐる。 何時 ( いつ )までも富岡がものを云はないので、ゆき子は、もう一度、小さい声で、「どうしたらいゝンでせう?」と 訊 ( き )いてみた。 富岡はゆつくり振り返つて、 「この先に、安南王の墓があるンですがね。 見物したらどうです?」と、怒つたやうに云つた。 富岡は 大股 ( おほまた )に歩いてゐる。 ゆき子には、富岡が親切なのかどうか、少しも、判らなかつた。 後姿を、ゆき子は 卑 ( いや )しいと思つた。 富岡は、ヘルメット帽子を手にぶらぶら振つてゐる。 音のしないラバソールの靴が気持ちよささうだつた。 ゆき子も、やつとの思ひで、サイゴンで安い白靴を買ひ、いまもそれをはいてゐるのだ。 路が二つに 岐 ( わか )れた。 狭い人道の方へ這入つて、暫く行くと、何時の間にか、富岡の歩調はにぶくなり、ゆき子と肩を並べる位になつた。 ゆき子は、あゝ自動車道路は、軍の自動車が通るので、あんなに大股に歩いたのかと、富岡の考へに思ひ当つた。 「昨夜は怒つたンだつて?」 「あら、何をですの……」 「加野がね、幸田君がとても、僕を怒つてるつて云つた……」 「えゝ、とても、こたへちやつたンです」 富岡は、ヘルメットをかぶり、腰の 図嚢 ( ずなう )から植林地図を出して、それを拡げながら歩いた。 森の中で、山鳩が近々と 啼 ( な )き始めた。 白い地図の反射を受けて、富岡は思ひついたやうに、胸のポケットから、薄紅いサングラスを出して高い鼻にかけた。 地図は急に薄紅く染つた。 空の細い 隙間 ( すきま )から、高原の強い日光がぎらぎらと道に降りそゝいでゐる。 富岡は、日本の女と歩く事に、何となく四囲に気を兼ねてゐた。 内地の習慣が、遠い地に来てゐても、富岡の日本人 根性 ( こんじやう )をおびえさせてゐるのだ。 かうして歩いてゐる事も、 気紛 ( きまぐ )れのやうな気がしたが、何しろ、四囲は 稀 ( まれ )な巨木の常緑濶葉樹が 欝蒼 ( うつさう )として繁つてゐる。 甘つたるく、ねばつこい花粉にとりかこまれてゐるやうな気配が立ちこめてゐて、二人とも黙つて歩くには息苦しい。 飛行機が森林の上を姿もみせずに、唸つて飛んで行つた。 陵墓附近は原生林が 昏 ( くら )く続き、カッチヤ松や、ナギが亭々と原生林のなかに混生してゐる。 この原生林を突き抜けると、十二三ヘクタアルのカッチヤ松の、人工 播種 ( はしゆ )造林地帯になる。 このあたりの民家では、炭焼きの かまども見られた。 ゆき子は歩き疲れてゐた。 昨夜はよく眠れなかつたせゐか、歩くと、息が切れさうに、背中がづきづきと痛んだ。 だが、時々深呼吸をすると、馬鹿に胸の中がせいせいと、涼しい空気でふくらんで来る。 そのくせ、ゆき子は森林地帯には少しも興味はなかつた。 只富岡の背の高い後姿に心は 惹 ( ひ )かれてゆく。 もつと、互ひに近しくなりたい孤独な甘さだけで、ゆき子は歩いてゐた。 ファンタスチックな感情が、ゆき子をわざと孤独な風に化粧させてしまふ……。 何時、富岡に振り返られても、旅空の女の淋しさを、上手にみせる哀愁の 面紗 ( ベール )を、ゆき子はじいつとかぶつてゐた。 その面紗の後で、ゆき子はひとりで 昂奮 ( かうふん )して、やるせなげに 溜息 ( ためいき )をついてゐるのだ。 富岡は振り返つた。 「疲れたでせう……」 「えゝ」 「僕は半日で、十二キロ位は平気だね。 森の中はいくら歩いても、案外疲れないし、夜はよく眠れるンだけどなア」 「あのう、加野さんは、ずつと、こちらにいらつしやいますの?」 「まだ、当分はゐるかもしれないね……」 「私、加野さんつて気味が悪いわ」 「何故? 荒れてゐるせゐかね……」 「昨夜、ひどく、お酒に酔つて、いらつしたンですのよ。 怖 ( こは )いわ」 富岡は黙つて、ゆつくり歩いた。 富岡は自分の後に近々と歩いて来てゐるゆき子に、歩調を合せるべく立ちどまつたが、無意識に、自然に寄つて来たゆき子の肩をつかんで、小暗いナギの大樹の下で、強く抱き締めてゐた。 ゆき子も案外自然であつた。 ゆき子は激しい息づかひで、富岡の胸に顔をすりつけて来た。 呆気 ( あつけ )なかつたが、富岡はゆき子の顔を胸から引きはなして、ぼつてりした唇を近々に見つめた。 言葉の隅々まで通じあふ、同種族の女のありがたさが、昨夜のニウとの接吻とは、はるかに違ふものを発見した。 気兼ねのない、楽々とした放心さで、富岡はゆき子の 赧 ( あか )らんだ顔を眺めた。 眼をつぶつて、荒い息づかひを殺してゐるゆき子の顔面が、ひどく妻の顔に似通つてゐた。 麻痺 ( まひ )した心の流れが、現実には、ゆき子の重たい顔をかゝへてゐながら、とりとめもなく千里を走り、もつと違ふものへの希求に、 焦 ( あせ )つてゐる心の位置を、富岡はどうする事も出来ない。 南方へ来て、清潔に女を愛する感情が、 呆 ( ぼ )けてしまつたやうな気がした。 森林のなかの獅子が、自由に相手を選んでゐた 境涯 ( きやうがい )から、狭い 囚 ( とら )はれの をりの中で、あてがはれた 牝 ( めす )をせつかちに追ひまはすやうな、空虚な心が、ゆき子との接吻のなかに、どうしても邪魔つけで取りのぞきやうがないのだ。 富岡は、何時までも長く、ゆき子を接吻してゐた。 ゆき子は、すつかり上気して、富岡の肩に爪をたてて 苛 ( じ )れてゐる。 少しづつ、心が冷えて来た富岡には、ゆき子の苛れた心に並行して、これ以上の行為に出る情熱はすでに薄れてゐた。 野生の小柄な 白孔雀 ( しろくじやく )が、ばたばたと森の中を飛んで消えた。 二人は暫く、森や部落や、広い農園のあたりを歩いて、昼もかなり過ぎてから事務所へ戻つた。 富岡はすぐ部屋へ行つてタオルをかゝへて、シャワーを浴びに行つたが、ゆき子は何気なく事務室を 覗 ( のぞ )いた。 加野がたつた一人で窓ぎはの広いデスクに 凭 ( もた )れて、書きものをしてゐた。 扇風機がとまつてゐるので、部屋の中は蒸し暑かつた。 加野は、ゆき子を見むきもしないで、ペンを走らせてゐる。 マリーは仕事を済ませて戻つたのか、タイプライターにカヴァがかけてあつた。 ゆき子はそのまゝ事務室を出て、二階へ上り、自分の部屋に行つたが、自分の部屋の扉が開いたまゝになつてゐるのが、厭な気持ちだつた。 誰かが、自分の部屋をみまはしたやうな気がして、ゆき子はじいつと、ベッドや机の上を眺めてゐた。 ベッドへ誰かが腰をかけてゐたやうな、深いくぼみが眼につくと、ゆき子は何となく、不安な気がしてならなかつた。 扉の鍵を閉めて、そつと靴のまゝベッドに寝転んでみたが、少しも落ちつかない。 開いた窓には、青い空だけが見えた。 こんなところへ、何をしに来たのかと 苛責 ( かしやく )に似た気持ちも感じられて、一日一日 気忙 ( きぜ )はしく戦争に追ひたてられてゐる、内地の様子が、意味もなく、ゆき子の頭の中に、 泡 ( あは )のやうに浮いては消えてゐる。 この現実には、さうした、追はれるやうな気忙はしさはなかつたけれども、石のやうに重たい淋しさや、孤独が、躯の 芯 ( しん )にまで喰ひ込んで来た。 ゆき子は、時々微笑が 湧 ( わ )いた。 深いちぎりとまではゆかないけれども、一人の男の心を得た自信で、豊かな気持ちであつた。 もう、遠い伊庭の事などはどうでもいゝ。 富岡の一切が噴きこぼれるやうな魅力なのだ。 川のやうに涙を流して愛しきれる気がした。 冷酷をよそほつてゐて、少しも冷酷でなかつた男の崩れかたが、気味がよかつたし、皮肉で、毒舌家で、細君思ひの男を素直に自分のものに出来た事は、ゆき子にとつては無上の嬉しさである。 富岡の冷酷ぶりに打ち 克 ( か )つた気がした。 昨夜、たやすく、加野の情熱に 溺 ( おぼ )れてゆかなかつた強さが、今日の幸福を得たやうな気がして、ゆき子は 何時 ( いつ )の間にか、満足してうとうと眠りに落ちてゐた。 富岡はシュバリヱの植物誌の重い本をかかへて、加野の横の木椅子に腰をかけた。 正面にランビァンの山を眺め、眼の下に湖が白く光つてゐた。 誰もゐない後の部屋では、からからと扇風機が鳴つてゐる。 富岡に命じられて、ニウが冷いビールと 鴨 ( かも )の冷肉を大皿に盛りあはせて持つて来た。 「一杯どうだ!」 富岡が加野に声をかけると、加野はものうげにコップを手に取つた。 小禽が騒々しく四囲にさへづつてゐる。 ビールを飲みながら、景色を見てゐると、山の色が太陽の光線の工合で、少しづつ色が変つていつた。 加野が黙つてビールを飲んでくれる事も富岡には幸だつた。 山も湖も、空も 亦 ( また )異郷の地でありながら、富岡は、仏蘭西人のやうにのびのびと、この土地を消化しきれないもどかしさがある。 この土地には、日本の片よつた狭い思想なぞは受けつけない広々とした反撥があつた。 おほやうにふるまつてはゐても、富岡達日本人のすべては、此の土地では、小さい異物に過ぎないのだ。 何の才能もなくて、 只 ( たゞ )、この場所に坐らされてゐる心細さが、富岡には此頃とくに感じられた。 貧弱な手品を使つてゐるに過ぎない。 いまに見破られてしまふだらう……。 だが、眼の前に見る湖の景色は、永久に心に残る美しさだつた。 誰も彼も日本人なぞには見むきもしてゐない土地で、日本人は 蟻 ( あり )のやうに素早く、あくせくと、人の土地を動きまはつてゐるだけだ。 極めて巧妙に 実際的 ( プラクチカル )な顔をして、日本人はこゝまで流れて来てはゐるけれども。 カッチャ松の樹齢は五六十年に達する筈なのだが、何の用意もなく、どしどし伐採して、伐採の数字だけを軍へ報告する。 数字は笑つてゐるのだ。 モイ族を使つて、ダニムの河に流したり汽車で運んだりはしてゐるが、富岡に云はせると、伐採された木材が少しも自由に動いてないのであつた。 伐採された木材は、貨車に溜つたまゝだつたし、ダニムの流れには、切り口の生々しいカッチヤ松や、オプリカスト・ナギなぞの大木が、川添ひにごろごろしたまゝで、伐採の数字だけが机から机を動いてゐるだけだつた。 素朴 ( そぼく )で不器用なモイ族を 怠惰 ( たいだ )な奴隷として、日本の軍隊は 忙 ( せ )はしく酷使してゐた。 何十年となく此の地にとどまつて、印度支那産物誌や、植物誌を書いた仏蘭西人のクレボーや、シュバリヱの著述は、富岡にとつては仲々得がたいものであり、仏印の林業を知る上には、この書物は、此の上ない 不朽 ( ふきう )の名著であつた。 加野も幾分酔ひがまはつて来たのか、さつきの不機嫌さが表情から消えて、思ひ出したやうに大きい声で、 「幸田女史は眠つてゐるのかな?」と云つた。 「さア……。 何をしてるのかね」 「さつき、マンキンへ幸田君連れて行つたンでせう?」 「いや、後から来たから、一緒に見物の相手をしたまでさ……」 「僕はあのひとに 惚 ( ほ )れてるンだ。 承知しといて下さいよ……」 「ほう……」 「こだはるわけぢやないが、さつき、工兵隊の将校が来て、富岡さんとよろしく歩いてゐた日本の女は、何者だと聞いてゐたンで、早いなと思つたンですよ」 「厭にこだはるなア。 ……只、歩いてゐただけだよ。 車輛部 ( しやりやうぶ )の少尉だらう? そんな事を云つたのは……」 「僕もすぐマンキンまで行つたンですよ。 随分探したンだが、判らなかつた……」 富岡は湖の方にひそかに眼をむけてゐた。 わざと森の 小径 ( こみち )へはいつて行つた事を知つたらどうだらうと、ぞくつとしながら、 「誰でも女には眼が早いもンねえ……」と、何気なく云つた。 「いや、富岡さんの素早いのには驚いた。 寝てる間に幸田君とマンキンへ行くなンざア、よろしくありませんよ。 女つてものは、瞬間の 雰囲気 ( ふんゐき )が勝負なンだから、いかに毒舌家の富岡さんでも信用はならない」 「後からついて来たンだよ。 所長が仕事をいひつけて行かなかつたし、君は寝てるンで、僕に何をしたらいゝか 訊 ( き )きに来たと云つたから、見物でもしたらいゝだらうと、一緒に案内したわけだ。 それきりだよ。 別に約束して、行つたわけでも何でもないさ……」 「まア、いゝですよ。 僕は惚れたンだから、何とか、彼女にぶちあたつてゆくまでだ」 邪魔をしないでくれといつた、はにかんだ微笑で、加野は自分でビールを二つのコップについだ。 富岡は煙草に火をつけて、ゆつくり煙を吐きながら、心のなかで、もう遅いよと 独白 ( どくはく )してゐる。 だが、考へてみると、遅くもない気がした。 あの場合、ゆき子の感情を 生殺 ( なまごろ )しのまゝでやり過した、自分の疲れかたは、只事ではないやうな気もして来る。 サイゴンへ旅立つ日まで、ニウとの毎夜の逢ふ瀬は、加野のやうな、肉体の兇暴さからは救はれてゐた。 ニウとの情交も、かりそめのもので、富岡は妻の邦子以外に、心の恋情は発芽しなかつたのだ。 所長の牧田氏も、富岡とニウとの間を薄々には知つてゐる様子だつた。 だが、牧田氏は所員の不始末に就いて、自分で責任を持つ限りにはあまり文句を云ふ人物でもない。 富岡は牧田氏のそのおだやかさに甘えきつてもゐるのだつた。 何時の間にか、太陽はオレンヂ色をふちどりして、ランビァンの山の方へかたむきかけてゐた。 湖が金色の針をちりばめたやうに、こまかに 小波 ( さゞなみ )をたててゐる。 食堂の奥から油臭い匂ひがたゞよつて来た。 夕暮の美しさは、ひとしほ、二人の男に考へ深いものを誘つた。 「これで、こゝは平穏だが、内地は大変なンだらうなア……。 恋愛をするなんざアぜいたくかな……」と加野が云つた。 「この戦争は勝つと思ふかね?」 「そりア勝つにきまつてゐますよ。 いまさら、 敗 ( ま )けツこはないでせう……。 こゝまで来て敗けたりしちやア眼もあてられない。 私は、敗けるなンざア考へてもみない。 牧田さんもあんたも、妙な、不安にとりつかれてゐるが、もし、万が一にも、敗けたとなれば、私はその場所で腹を切つてしまふ……」 「さう簡単には腹を切れないよ。 敗けるとは思ひたくないが、敗ける可能性は、君、あるらしいンだぜ。 なるべく、さうした問題には触れたくはないが、どうも、耳にはいるニュースはいゝ面ばかりぢやない。 此の土地のものが一番敏感だからね。 一種の日本人的スタイルで、強引には押してはゐるが、手持ちの金も銀も飛車もありやアしないンだ。 何となく日本的表象の影が薄くなつたね。 円熟しないまゝで途方に暮れて、そこらを引つかきまはしてゐるのさ……。 戦争を合理化する為に、色々と策はねつてゐるンだらうが、それからさきの才能がとぼしいンだ。 何しろ、猿に刃物的なところもあるンだよ……」 「あんまり無意味な事を云はないで下さいよ。 まア矛盾もあるにはあるでせうが、乗るかそるかやつてみない事にはね。 結局、最悪の場合は、玉砕だ。 死にやアいゝでせう、死にやア……」 「無責任だね」 富岡は吐き捨てるやうに云つて、トイレットに立つて行つた。 富岡が食堂を出て行くとすぐ、入れかはりに、幸田ゆき子が、寝たりた顔で食堂へはいつて来た。 ギンガムの 紅 ( あか )い格子のワンピースを着て、ひどくめかしこんでゐた。 髪をブルウの細いリボンで結んでゐた。 加野ははつとして、暫く振り返つて、ゆき子を眺めてゐた。 「昼御飯も食べないで、おなかが 空 ( す )いたでせう?」 加野が椅子をすゝめながら云つた。 ゆき子は素直に、加野のそばの椅子に腰をかけて、 素肌 ( すはだ )の脚を組んだ。 金色の太陽の光線で、ゆき子の顔がぼおつと浮いてみえる。 唇が血を吸つたやうに 紅 ( あか )く光つてゐる。 日本的な香料の匂ひがした。 加野はなつかしい気がして、何の匂ひだらうかと鼻をうごめかしてゐたが、 椿油 ( つばきあぶら )の匂ひだと思ひ当つた。 ゆき子の髪が 艶々 ( つやつや )と光つてゐた。 加野はポケットから部厚い角封筒を出して、素早くゆき子の膝に置いた。 「あとで、読んで下さい」 とつさに、ゆき子はその封書を白いハンケチにくるんだ。 富岡がのつそりとトイレットから戻つて来た。 わざとゆき子の方に一べつもくれないで、金色の太陽をまぶしさうに暫く眺めてゐた。 加野は食堂からコップとビールを持つて来て、ビールをついで、ゆき子に渡した。 ぎこちない沈黙が暫く続いたが、 軈 ( やが )て、富岡は重いシュバリヱの本をかゝへて、黙つて椅子を離れて食堂を出て行つた。 加野は、富岡が素直に気を利かせてくれたのだと思ひ込んでゐる。 雨は 土砂降 ( どしやぶ )りになつた様子だ。 樋 ( とひ )をつたふ雨声が滝のやうに激しくなり、ゆき子はふつとまた現実に呼び戻される。 くさくさして、仲々寝つかれない。 仏印での華やかな思ひ出が、走馬燈のやうに頭のなかに浮きつ沈みつしてゐる。 夜更けてずんと冷えて来たせゐか、一枚の蒲団だけでは寒くて寝つかれなかつた。 泥のやうに疲れてゐながら、露営をしてゐるやうな落ちつきのなさである。 誰も力になつてくれるもののない抵抗しやうのない淋しさで、暗がりに眼を開いたまゝ、ゆき子はじつと激しい雨の音に耳をかたむけてゐた。 伊庭がこの家にゐなかつた事は 倖 ( しあはせ )であつた。 もう一度、昔のむしかへしはないけれども、伊庭との間に四ヶ年の月日の空間を置いた事は、ゆき子にとつて有難いのであつた。 誰も顔見知りのないところで、ごろりと寝転んでゐる。 ゆき子には仏印でそんな習慣には馴れきつてゐた。 海防 ( ハイフォン )の収容所では、篠原春子とも逢はなかつたし、春子の様子を知つてゐる女達とは誰にも逢ふ機会がなかつた。 加野は終戦前にサイゴンの憲兵隊へ連れて行かれたまゝだつたし、最後までゐた富岡は、幸運にも、五月の船でゆき子より一足さきに内地へ引揚げて行つた。 五月から今日まで、富岡の心が、どんな風に変つてゐるかは判らなかつたが、逢ひさへすれば、二人の間は解決するのだと、ゆき子は自信を持つてゐた。 自信を持つ事が気が楽だつたせゐもある。 その翌朝、雨は 霽 ( は )れてゐた。 からりとした初冬の空が、雨あがりの湿気を吹きはらつてゐた。 荒れた狭い庭の柿の木には 霜 ( しも )を置いたやうな小粒な 渋柿 ( しぶがき )がいくつか実つてゐた。 柿の木が大きくそだつてゐる事に、四年の歳月があつたのだとゆき子はうなづいた。 同居人の細君は、真黒い麦飯だけれど召し上つて下さいと云つて、朝の卓にゆき子を呼んでくれた。 主人公は夜明けに早く出て行つた様子だつたが、細君の話では、信州へリンゴを買ひに行つたのだと云つた。 郷里が信州なので、このごろリンゴのブロオカーを始めたのだが、早晩、果実の統制がはづれる様子だから、静岡へ塩を買ひに行つて、塩を信州へ持つてゆき、信州から味噌を持つて来てみようかと思ふとも云つた。 「伊庭さんとの間がうまくいつてましたら、伊庭さんにお世話願つて、塩を手に入れたいのですけれど、何しろ、うちのひとときたら伊庭さんにいゝ気持ち持つてませんのでね。 何処か、塩を売つてくれる処、御ぞんじぢやありません?」 ゆき子は一向にそんなところは知らなかつた。 食卓には八ツの男の子を 頭 ( かしら )に、七ツの女の子と三ツの男の子と赤ん坊がゐる。 主人の末弟が同居してゐるのだが、今日は二人でリンゴを取りに行つたのださうだ。 ゆき子は何でもして働く気持ちもないではなかつたが、富岡に逢つてから方針をきめたいと思つた。 伊庭の荷物のある部屋でよければ当分ゐてもいゝと細君が云つてくれたので、ゆき子は 吻 ( ほ )つとして、その好意に感謝した。 かへつてゆき子は、以前の職場へ戻りたい気は少しもないのであつた。 朝食後、細君に教はつて、近所の酒の配給所に電話を借りに行つた。 農林省の富岡のデスクに電話を掛けてみたが、女の声で、富岡といふ人は省をやめてしまつてゐると教へてくれた。 ゆき子は思ひ切つて、上大崎の富岡のアドレスを頼りに尋ねてみる気になり、出むいて行つた。 目黒の駅を降りて、切通しの下を省線の走つてゐる道添ひに、人に聞きながら歩いて行つた。 伏見之官邸の前を通り、焼け残つた邸町を、番地を頼りに歩いた。 電車で見る窓外の景色は大半が焼け野原で、何も 彼 ( か )も以前の姿は崩れ果ててしまつてゐるやうな気がした。 やつとその番地を探しあてて富岡の名刺の張りつけてある玄関を眼の前にして、ゆき子は妙に気おくれがしてならなかつた。 同居してゐるらしく、別の名札が二つばかり出てゐた。 荒れ果てた家でどの 硝子 ( ガラス )にも細いテープでつぎたしてあつた。 夜来の雨で洗はれた矢竹が、 箒 ( はうき )のやうに、こはれた 板塀 ( いたべい )に 凭 ( もた )れかゝつてゐる。 細君に顔をあはせるのが厭であつたが、電報を打つても返事も来ないところをみると、自分で尋ねてゆくより方法がない。 ゆき子は思ひ切つて硝子のはまつた格子戸を開け、農林省からの使ひだと案内を乞うた。 五十年配の品のいゝ老婦人が出て来て、すぐ奥へ引つこんだが、思ひがけなく着物姿の背の高い富岡がのつそり玄関へ出て来た。 富岡はさほど驚いた様子もなく、下駄をつつかけて外へ出ると、黙つてゆつくり歩き出した。 ゆき子も後を追つた。 知らない小道をいくつか曲つて、焼跡の続いた淋しい通りへ出ると、富岡は初めて、ゆき子を振り返つて、 「元気だね」と云つた。 「電報、御覧になつて」 「あゝ」 「 何故 ( なぜ )、返事くれないの?」 「どうせ、東京へ出て来ると思つた」 「お勤めは、おやめになつてるのね?」 「七月にやめた」 「いま、何をしてるの?」 「親父の仕事を手伝つてる……」 「さつきの方、お母さま?」 「うん」 「よく似ていらつしたから、さうぢやないかと思つたわ」 「君、何処にゐるの?」 「鷺の宮の親類の家……」 「君、こゝで一寸待つてるかい?」 「えゝ、待つてゐます」 富岡は支度をして来ると云つて、もと来た道へ引返して行つた。 紺飛白 ( こんがすり )の着物を着た後姿に、人が違つてしまつたやうな妙な気配が感じられた。 ゆき子は焼跡の石塀のこはれたのに腰をかけて、暫く寒い風に吹かれてゐた。 黒いサージの 洋袴 ( ズボン )に、同居の細君に借りて来たブルウの疲れたジャケツ姿の自分が、ひどく荒涼としたその景色にしつくりしてゐた。 危険な訪問だつたと、今頃になつて顔が 火照 ( ほて )つて来た。 三十分も待つた頃、富岡が洋服姿でやつて来た、幾分かは昔のおもかげがあつたけれども、疲れた冬服のせゐか、ダラットで見た頃の若々しさが失はれて、何となく、くすぼつて見えた。 ひどく 痩 ( や )せてもゐた。 石塀の崩れた処へ腰を降ろしてゐるゆき子を、遠くから眺めて、富岡は、何の感動もなかつた。 舞台がすつかり変つてしまつてゐるこの廃墟では、ダラットでの夢をもう一度くりかへしてみたいといふ気はしなかつた。 苛 ( い )ら立つた心をおさへて、もう終末の来る断定だけで、富岡はゆき子のそばへ歩み寄つた。 鸚鵡 ( あうむ )のやうにもう一度、 「元気だね」と云つた。 「えゝ、あなたに逢ひたい一念で戻つたのですもの、元気でなくちや」 ゆき子は念を押すやうにして、まぶしさうに下から富岡をしみじみと眺めた。 富岡は唇に微笑を浮べて、返事もしなかつた。 別れるといふ断定が、二人の間に 挾 ( はさ )まつてゐるのを、引揚げたばかりのゆき子には見えないに違ひない。 電報を見て以来、富岡はあまりいゝ気持ちはしてゐなかつたが、それでも責任だけは果さなければなるまいと考へてゐた。 あんまり悪党だと思はれないうちにとも考へてゐたが、現実にゆき子に逢つてみると、そんな考へもいまは必要ではなく、あつさり、今夜一晩で別れられるやうな決断力が出た。 「 何処 ( どこ )へ行くかね?」ゆき子に聞いてみたが、ゆき子は何処も知る筈がない。 このごろ、池袋に小さい旅館が出来てゐると誰かに聞いてゐたのを思ひ出して、富岡は池袋へ行つた。 煎餅 ( せんべい )のやうな生木の薄いバラック旅館が、いくつも建ちかけてゐた。 気儘 ( きまゝ )放題に家が建ち並んでゐる。 市場 ( マァケット )あり小料理屋あり。 ひしめきあつてゐる急速の混雑状態が、かへつて女を連れてかくれるには、かつかうの市街であつた。 看板だけはホテルと名のついてゐる、木造の小さい旅館に、富岡は硝子戸を開けて這入つて行つた。 髪ふり乱した 蒼 ( あを )い顔の女が、チュウインガムをくちやくちややりながら、靴をはいてゐたが、ろくろく 紐 ( ひも )も結ばずに、扉に 躯 ( からだ )をぶつつけるやうに戸外へ出て行つた。 ゆき子は寒々とした気になつてゐる。 畳は汚れ、点々と煙草の焼け跡があつた。 床の間も何もない。 緑色の壁には幾つも引つかいた筋がついてゐた。 部屋の隅に汚れた赤い無地の蒲団が、二枚積み重ねてあつた。 その蒲団の上に、覆ひのない枕のサラサは油でべとべとに光つてゐた。 富岡は金を出して、ワンタンと酒を注文した。 卓子も火鉢もないがらんとした部屋では、二人とも取りつきばもないのだ。 富岡は壁に 凭 ( もた )れて、長い膝小僧を抱いた。 ゆき子は蒲団に 片肘 ( かたひぢ )ついて横坐りになると、ジャケツの胸の上から大きなまるい乳房を、 叩 ( たゝ )くやうにして 掻 ( か )いてゐる。 「世の中つて、こんなに変つてるとは思はなかつたわ」 「敗戦だもの、変らないのがどうかしてるさ……」 「さうね……。 あゝ、でも、私、とつても、あなたに逢ひたかつたのよ。 あなた、いやに 冷 ( つめた )いのね。 引揚げて来たものなンか、もう同情しないンでせう?」 「馬鹿云つちやアいけない。 俺だつて引揚げだよ。 君ばかりぢやない。 沢山俺達のやうなのはゐる」 何もさう、引揚げだからと、自分だけが偉いもののやうに、気負つてゐる云ひかたをするゆき子の不作法なのが、富岡にはあまりいゝ気持ちではなかつた。 いきなり泥水のなかへ寝転んで動かうともしないゆき子の馴々しさが、富岡にはなじめない。 ゆき子は、激しい男の感情を待つてゐた。 誰も見てゐない、たつた二人きりのこの囲ひのなかで、最初に逢つた時のやうなよそよそしさでゐる富岡の心が判らなかつた。 ダラットでの二人きりの理解はこんなに時がたてば 儚 ( はかな )いものだつたのだらうか……。 些細 ( ささい )な事にはこだはつてはゐられない、荒波のしぶきに 鍛 ( きた )へられて、ゆき子は大胆ににじり寄つて行つて、富岡の膝小僧にあごをすゑた。 「どうして、そんなに知らないふりしてるの?」 「何を?……」 「私が、厭なのでせう?」 「何を云つてるンだい。 女つて 呑気 ( のんき )だね……」 「呑気ぢやないわ。 私、捨てられるンだつたら、こんなにして戻つては来ない、加野さんと一緒に戻つて来たわ。 加野は加野だ。 君があんな風にしむけた罪があるンだ。 女は誰にでも 尻尾 ( しつぽ )を振つてゆく気があるンだ。 あんな処では、女は無上の天国だからね……。 誰にも愛されるのは、女にとつて、いゝ気持ちだらう……」 「まア……。 今頃、そんな事言つて、厭! 急にそんな事言つて、私をいぢめるのでせう。 もう、私に愛情もないンぢやありませんか……。 いゝわ、私だつて、さつき、こゝの玄関で見た女みたいになつてみせるわ。 もう誰にも遠慮しないで、私はどろどろにおつこちて行きます……」 「そんなにヒステリックになるもンぢやない。 俺だつて、内地へ戻れば、ダラットの時のやうな、責任のない暮しは出来ないよ。 只、ダラットの生活の続きを内地で持たうといふ事は無理だと云ひたかつたンだ。 君の生活に 就 ( つ )いても大いに力になつてあげようし、俺だつて、その位の責任は持つ気だよ」 「どんな責任?」 酒に酔つて来た為か、富岡は少しづつ気持ちが明るくなり、 曖昧 ( あいまい )な心のわだかまりから、解放されて、このまゝまた元通りの危険な関係に 墜 ( お )ち込んでゆく勇気が出た。 家庭とか幸田ゆき子の問題とか、そんなごみごみした現実からは、飛び離れた空想でいつぱいになりながらも、自分の 躯 ( からだ )のなかの人間的な淋しさは、自分の考へなぞはふり捨ててしまつて、やつぱり、そこに横になつて、泣いてゐる女を、抱きかゝへたくなつてゐる。 日本に戻つて来ると同時に、ゆき子への思ひ出を否認しつゞけて、少しづつ記憶が薄れかけて来てゐる処へ、また、かうして眼の前に幸田ゆき子を見ると、富岡は何の準備もなく、己れの運命の断層を見せられた気がした。 富岡は、今度は、自分の方からにじり寄つて行つて、ゆき子のそばへ肩を並べた。 「私、思ひ出すわ。 いろんなこと……。 あの頃つて、私も、あなたも狂人みたいだつたわね。 チャンボウの保存林を視察に行く時、牧田さんと、内地から来た何とかと云ふ少佐のひとと、あなたと、自動車に乗る時、急に、あなたが、幸田さんも行きませんかつて云つてくれて、少佐のひとも、さうださうだ、幸田嬢も連れて行かうつて云つて、四人でチャンボウへ行つたでせう? 何ていふ宿屋だつたかしら、安南のホテルに泊つて、ランプで御飯を食べて、みんなお酒を飲んで、酔つて、眠つたのよ。 一番はづれの部屋があなたのところだつて、覚えておいて、私、夜中に、 裸足 ( はだし )で、あなたの部屋へ行つたわね。 並んだ部屋の前は沼になつてゐて、森で気味の悪い鳥の啼き声がしたわ。 ドアには鍵もおりてなかつたので、そつとノブをまはすと、安南人の番人が庭に立つてゐたンで、 吃驚 ( びつくり )しちやつた……。 でも、あの時が、あなたとは、初めてだつたでせう?」 ゆき子が、富岡の手を取つて、指をからませながら、こんな事を云つた。 富岡は、あゝそんな事件もあつたと思つた。 兵隊が血を流して死んでゆく最中に、女と二人でたはむれてゐた当時の気の狂つた日常が、富岡には夢物語のやうでもある。 馬小舎 ( うまごや )のやうに、境の壁がついたて式になつてゐたので、どんな物音も筒抜けに聞える粗末な部屋だつた。 眼を閉ぢるとすぐ、さうした二人でだけ知つてゐる思ひ出が、瞼の中に走つて来た。 カッチヤ松の林床には、カルカヤや、チガヤが繁り、ところどころに、ボタンやヤマモ丶や、ユーゲニヤが点じてゐて、富岡にしても、チャンボウの森林はなつかしい土地である。 二人の 苦力 ( クーリー )が組になつて、伐倒や玉切りをして、一日やつと立木四本位を切り倒す位だつたかなと、森林官としてチャンボウへ出張してゐた頃を富岡は思ひ出してゐた。 このあたりの 樵人 ( きこり )は、おもにモイ族とか、安南人を使つてゐたが、みんなマラリヤを怖れて、募集の布告を出しても、仲々あつまりが悪く、富岡は率先して、自分で、苦力を 募 ( つの )つてチャンボウへ何日も出掛けて行つたものだつた。 山の中では、 手挽 ( てびき )の製材小舎を建てて、そこで小角物や板材に挽いてダラットへ軍のトラックで送り出した。

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別名、臭い玉(くさい玉、におい玉)。 その正体は、細菌と 白血球の死骸の塊。 大きさは、そのときどきで変わるが、1ミリくらいのときもあれば、数センチサイズにもなったり、そのときの育ち具合によって様々。 色は、基本、乳白色。 緑色の膿栓っていうのも、うわさでは存在するらしいんだけど、僕は緑色のやつはでたことないです 笑 緑って、悪性の痰かなんかじゃねーの?健全な膿栓は、基本、黄白色です。 英語では「tonsillolith」と言うみたいっす。 訳は、扁桃結石。 扁桃腺にできる石。 でも石じゃないけどね。 一見ピーナッツっぽいので、噛みごたえありそうに見えるんだけど、ないんだよね。 むしろ、ぐにゃってしてる。 ちなみに、この膿栓。 味は無味です。 くれぐれも、かみ砕かないようにしてください。 悪臭で、口の中が地獄と化します。 そして、なおった後、扁桃腺あたりを指でグッて押したら、びっくり! 僕の人生で最も大きい特大サイズの臭い玉がとれました(とにかく、でかい!でかすぎ!出来の悪い枝豆サイズ。 実際に枝豆サイズあったかというと、多分そこまで巨大ではなかったと思うが、それくらい強烈なインパクトで巨大に見えた) あまりの巨大さに、気持ち悪くなって、ごみ箱に捨ててしまいました。 この膿栓(臭い玉)、めちゃくちゃクサいんです。 クサいという三文字では表せないくらいクサい。 マジで。 どれくらいクサいかというと、うまく表現できないんだけど、同じ大きさの ウンコ と膿栓(臭い玉)だったら、 膿栓(臭い玉)に軍配があがる と思われるくらいクサい(いや、でも実際は、うんこが勝つかな。 わからん。 でも、それくらい、いい勝負ってこと)。 膿栓(臭い玉)があるかどうか、自分で確認する方法については 記事「」を見てね。 喉の奥の左右にある扁桃腺は、免疫に関与してて、粘膜内に進入してきた細菌やウイルスなどを殺し、体内への侵入を防いでいます。 この扁桃腺の周辺の粘膜には、穴がいくつかあって、その穴の中に、細菌や白血球の死骸、食べカスなどがブレンドされて、この膿栓(臭い玉)ができあがるんです。 ですので、喉から見慣れない白い物体がでてきても、あせる必要はありません。 膿栓(臭い玉)ができるのは別に病気でもなんでもないし、免疫システムの結果できるものなんです。 なお、wikipediaによると、喉の構造や扁桃腺の形などにより、体外排出に個人差はあるが、膿栓(臭い玉)自体は誰でもあるとのことです。 ここ、今のところ、はっきりとコメントできないというか、僕の中でグレーな部分です。 口臭が発生しにくい人は、そもそも膿栓(臭い玉)が生成されにくい体質と僕は考えているんですが、そうじゃなくて、誰でもできるそうです。 ホントかいな。 テレビで見る、女性アイドルもみんな膿栓(臭い玉)まみれってこと? また、膿栓(臭い玉)は、タバコを吸ったり、冬になったりすると、できる頻度が増えるそうです。 僕は、タバコは吸いませんが、確かに、冬になって空気が乾燥すると膿栓(臭い玉)がよくでる気がします。 たぶん、乾燥がよくないんでしょうね。 口呼吸の人も、膿栓(臭い玉)ができやすいと聞きます。 まあ、とりあえず、激臭ですね。 人によっては、死んだザリガニ臭と表現する人も。 「膿栓?そんな下品なもの一度もでてきたことないし、私にあるわけないわ。 失礼なコト言わないでちょうだい」 最初は、僕も他人事だったんですが、どれどれと、試しに鏡で自分の喉を指でこねくりまわして見てみると 「アレ?なんか白いのあんぞ」 ただ、白いのはあったんですが、すげーカチカチなんですよね。 カッチカチ、石みたい。 そんな物体が、粘膜が少し膨れ上がっているところから顔を出していました。 指でつまんだり、グリグリしても、取れる気配はありません。 あまりにも長い年月の間、摘出されていなかったために、どうやら石化したらしく、もはや、ニオイもなくなっていました あるはずないと思ってる人は、一度、鏡で見てはどうでしょうか どこらへんにあるかは、後で、詳しく説明します。 そういう健康な状態で、歯磨き、舌磨きをしたのに、数分後に、「ドブ、下水系の臭い」、「ウンチみたいな臭い」がしてくる場合、 その口臭の原因は、膿栓(臭い玉)である可能性が高い です。 一方、歯磨き・舌磨きをした後、しばらくは、口臭はほとんどしてこない。 してきたとしても、「ちょっとニンニク・ニラ系のニオイ」程度なら、普通の口臭だと思います。 普通っていうのもなんですけど、この場合、 原因は膿栓(臭い玉)ではなく、舌苔が考えられます。 舌苔があると、細菌の働きで、「ニンニク・ニラ系の臭い」がしてくるんですよね。 膿栓(臭い玉)の場合、口臭は「ドブ、下水系の臭い」、「ウンチみたいな臭い」こっち系なんですよね ちなみに、口臭の強烈度をあらわすと、 膿栓(臭い玉)>>>(超えられない壁)>舌苔>歯垢 という感じです。 扁桃腺の場所は、上の図だと、黒い穴があいてる粘膜の下に、たぶんある。 僕の場合、上図のとおり、扁桃腺周辺の粘膜に、左右一つずつ、大きな穴があいています。 まず、そこに頻繁にできます。 また、扁桃腺周辺には、他にも小さな穴がいくつかあり、僕の場合、そこにもできることがあります。 ぱっと見、穴なんかなさそうな粘膜部分を指でグっと押したら、巨大膿栓がとれたことがありました。 ただ、そういった粘膜に完全に埋まってる場合は、たぶん、そんなニオイはしてこないと思います。 明らかな膿栓臭がしてくる場合っていうのは、そういった穴から膿栓(臭い玉)が、ひょこっと顔を出している場合なんです。 口が超クサくて膿栓臭がめちゃくちゃしたときは、鏡で上記穴を確認すると、たいてい 膿栓( 臭い玉)が顔をだしていたりします。 この場合、モンダミンなどのマウスウォッシュをしたとしても、のれんに腕押し。 すぐ口の中がクサくなります。 ですが、それほど膿栓臭がひどくないときは、まだ 膿栓( 臭い玉)が穴の中にいて、見えないことが多いです。 そんなときが、一番イライラします。 取りたいんだけど取れない…。 どこに埋まっているのか分からない…。 異物感はするのに、放置せざるを得ない状況。 そんな状態は、ストレスMAXで、とても不快な気分になります。 以前、僕は、 膿栓( 臭い玉)が、ほぼ毎日の頻度で生成されていました。 「やったー、とれたー!」と思っても、しばらくすると、また、喉の奥がイガイガ、ゴロゴロ、違和感・異物感がしてきます…。 そして、口がクサくなってくる…。 口臭体質が、一番の悩みでした。 膿栓 (臭い玉)ができにくくなる薬や漢方、お茶などがあるんなら、是非ほしいですね。 なた豆とか膿栓対策にもなるんですかね?なた豆はまだ試してないんで、何とも言えません。 個人的に気になるのが、鼻うがい。 予防法ではないんですが、鼻うがいをすることで、普通のうがいでは取れない膿栓 (臭い玉)が、ポロっと取れることがあるみたい。 膿栓( 臭い玉)の予防でよく言われているのが、イソジンのうがい。 これやってみたんですけど、僕にはあまり効果なかったです。 1時間おきの頻度で、狂ったようにイソジンでうがいしてみましたが、やっぱり 膿栓(くさい玉)はできました。 ネット上で膿栓 (臭い玉)の取り方について検索すると、たくさんの取り方が紹介されています。 喉を「んぐんぐ」する方法や、綿棒で取る方法、シャワーで取る方法、エアダスターで吹き飛ばす方法、吸引器を使って吸引する方法、など、取り方は実に様々です。 ただ、膿栓(臭い玉)を自分でとる場合、扁桃腺に傷をつけてしまい、病気へとつながるリスクがあります。 耳かきでほじくる方法や、ウォータピックを使う方法などは、粘膜に傷がつく危険が大なので、オススメの取り方ではありません。 以下の方法は、そういったリスクが割りと少なく、そこそこ 膿栓(くさい玉)がとれる方法です。 以下、自己責任でお読みください。 僕が紹介する取り方は、ピストンと耳かきを使う方法です。 ピストンは東急ハンズで購入(100円)。 耳かきは100均で(100均の耳かきは色々ありますが、どれでもいいのではなくて、先が細目のやつにしてください。 太いと穴に入らないから)。 では取り方いきます。 手で表現して説明します。 まず、この人差し指と親指で表現している穴が、さっきの上の図(口の絵)の、扁桃腺周辺の大きな穴をあらわしています。 で、 膿栓(臭い玉)がたまる場所は、この大きな穴の奥じゃなくて、 上図のように、 穴の入り口付近の粘膜の裏側あたりにたまります。 これ結構重要で、口がくさくて絶対に 膿栓( 臭い玉)があるなーってとき、僕は、穴の奥のほうを耳かきでほじくりまくっていましたが、全然とれなくて、途方にくれていました。 絶対この穴にあるはずなのに、何でいくらほじくっても出てこないんだ……って。 もしや、この穴じゃないのか?と疑いさえしました。 答えは、 穴の奥じゃなくて、穴の入り口付近の粘膜裏側だった んです。 だから、いくら穴の奥をほじってもでてこなかったのです。 で、まず使うアイテムはピストン。 穴へのインサートの仕方ですが、上図は良くない例です。 これだと、垂直に差込みすぎているため、穴の奥には水がいきますが、 本命の穴の入り口付近を攻撃できません。 できるだけこんな感じに近づける) ピストンへの水の入れ方いきます。 押し出す部分をとりつけます。 ここで、 一割くらい押し込んで、水を「ぴゅぴゅ」とだしてください (少しの力で水がでるようにするため)。 やらないと粘膜にものすごい水圧で第一発目の水があたり死にます。 そしたら、 穴にこんな感じで、先端を軽くさしこんで、まずは、 軽く「じょぼじょぼ」と水を押し出します。 で、 慣れてきたら、水圧を強めにしていきます。 うまくいけば、ベロの上に、 膿栓( 臭い玉)が転がりこんできます。 転がりこんでこなかったとしても、まだ、あきらめてはいけません。 この後、穴の近辺を指でギューっと押します。 このときに 膿栓( 臭い玉)が顔をヒョコっと出しているときがありますから、そしたら耳かきで、そっととりましょう。 以前、僕は、ピストンを使わず耳かきだけで、とっていたんですが、耳かきでほじくるのは、ちょっと危険です。 というのは、先ほど触れましたが、そこからバイ菌が入って、扁桃腺が腫れる危険があるからです。 「そんなこと、滅多にないだろう」と思っていたら、見事に腫れたことがあるので、ピストン方式に変えました。 実際、ピストンで水を注入するだけなら、粘膜には、傷はつきにくいと思います。 耳かきでほじると、よく血が出ますが、ピストンでは、血がでたことないです。 耳かきの役目は、ピストン後、膿栓(臭い玉)が顔を出したらとるくらいに考えてください (耳かきが怖いなら、綿棒や、つまようじでもOK)。 ちなみに、僕は、以前、ウォーターピックを使って 膿栓( 臭い玉)を摘出したことがあるんですが、アレはやめたほうがいいですよ。 というのは、水圧が強すぎて、出血してしまうんです。 ピストンを使う方法が安全でオススメな取り方です。 (ピストンが使いにくいなら、スポイトを使うのもありかも) ただ、ウォーターピックで洗浄したときは、水圧が強すぎて痛かったんですが、その分、びっくりするくらい多い量の膿栓が、大量にとれ、とてもスッキリしました。 よくわからないと思うので、どういうコトか説明します。 先ほどの図です。 左の穴って書いてある穴ありますよね。 この穴を形成している粘膜の壁の横に、また深い穴があいていて、どうやら膿栓(臭い玉)はその中で作られている という話です。 上の図の左の穴って書いてある穴を手で表したのが、下の写真です。 で、 この大きな穴の入口付近に、下のつまようじみたいな感じで、さらに穴(管)があいていたりします (あくまで僕の場合ですが。 ちなみに、つまようじは例えなので、実際あいている穴は、こんな深くはないはず)。 先ほど、 膿栓( 臭い玉)は、この大きな穴の入口の粘膜の裏側にたまっていると説明しました。 大きな穴の入口の粘膜の裏側にたまる原因は、たぶん、 この横にあいている穴(管)で生成された膿栓が前方に流れてきて、結果、粘膜の裏側にたまる んだと思われます。 あくまで、僕の場合ですが、左の大きな穴の中の入口付近に、2本、横穴がありました。 上のつまようじみたいな感じです。 耳かきが入ったくらいなので、けっこう大きな穴でした。 もしかしたら、この横穴、まだまだ奥の方に、いくつかある可能性もあります。 上の写真で言えば、つまようじの部分ね。 このつまようじ部分の管の中に膿栓が潜んでいるんだと思います。 こんなとこに膿栓がいたら、なかなかとれません。 あと、先ほどのピストンで膿栓( 臭い玉)を除去する方法の補足説明しようと思います。 左の大きな穴にピストンを差し込むと、口の構造上、上の写真みたいな向きで、差し込むことになると思います。 この場合、方向的に、 大きな穴の入口付近の2本の穴のうち、赤丸の穴の中にはピストンの水がジャストミートするので、膿栓( 臭い玉)はとれると思いますが、青丸の穴の中には水が入りにくいので、青丸の穴の中の膿栓( 臭い玉)は取れづらいと思われます。 また、ピストン法だと、奥の方の穴(上の写真だと、丸で囲んでいない、つまようじ)には、当然、水がジャストミートしないので、この場合も、膿栓( 臭い玉)がとれません。 ピストン法は、発射される水の方向と、穴の向きがある程度同じでないと、有効じゃないんです…。 穴の中に水が入らないから。 ピストン法以外の取り方で、よい対策法見つけたら、また書きます。 今、思いついたので、図解で説明します。 まず、扁桃腺にある大きな穴の断面図が下の図です。 先ほども説明したように、大きな穴の入り口付近には、小さな管があります(僕の場合ね) で、膿栓(臭い玉)ができはじめた図が下。 この、『穴から膿栓( 臭い玉)が顔をだしてる状態』、この状態になると、口が超クサクなります。 鏡で見て、白い塊が見えるのもこの状態のときです。 この、顔をだしているときに、うまくやれば膿栓が取れるんですが、何か飲み込んだりすると、せっかく顔をだしていた膿栓( 臭い玉)が、後方へ移動して、とれなくなってしまうんですよね。 そんなときは、たぶん、こんな状態です。 で、先ほど、穴から顔をだしていたやつは、大きな穴の奥の方へいってしまいます(運がいい人や、膿栓が排出されやすい人は、穴の奥にはいかず、口の中にでるのかもね) あとは、その繰り返しです。 この状態だと、耳かきで、大きな穴をほじほじすると、大量に取れます。 こんな感じでしょうかね。 実際、このとおりたまっていくかは、わかりません。 というのも、小さな膿栓が集合してさらにくっついた、でかい塊が最近とれたからです(まあ以前にも取れたことは多々ありますが…)。 つまりどういうことかというと、穴にたまったいくつかの細かい膿栓が、膿汁でさらに結合して一個になる場合もあるということです。 実際、季節によってもでき方が違ってきたり、普段でたことがないような小さな穴から、いきなり巨大膿栓がでてきたりと、正直謎です。 上で書いたのは、生成過程のごく一部かもしれません。 本来の用途は、歯と歯の隙間の掃除。 でも、使ってる人によると、水圧が弱いから、これだけじゃ、歯間の汚れは取れないらしい。 このシリンジ、形が注射器タイプだから、膿栓(臭い玉)の除去に使えそうだな〜って思ってたら、やっぱ、使えるみたいっす。 アマゾンのレビューにも、こんな意見が! 引用(より) 『この製品は歯の掃除に使うものではありません。 正しくは扁桃腺の石、膿栓(臭い玉)を除去するためのものです。 これは外国の製品でアメリカ等の海外では、これで膿栓を除去します。 この水圧では歯の汚れは落ちませんが、扁桃腺の膿栓はしっかりと取れます。 口臭に困っていたり、よく膿栓が扁桃腺にできる人に対しての商品です。 いいね、コレ!! さきほど、ピストン法という取り方について紹介しましたが、ピストンじゃなくて、こっちのシリンジを使ったほうがよさそうですね。 ただ、僕は、半年前(2014年9月)くらいから急に、になってしまったので、このシリンジ買っても、持て余しちゃうんだよね(完治したのか、マジで一個もできなくなった。

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